51.あるべきところ
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
もうすぐ定期試験。
すでに推薦合格を決めたハルとフーコはさっさと帰宅、いつも一緒に勉強していたトモは今日は家の用事があると言って先に帰ってしまった。
というわけで、今日は図書館で調べ物をしながら一人で勉強していたわけだが、そういう日に限って人気の少ない哲学書コーナーで、バッタリと会いたくない人物に遭遇してしまう。
「あら、宮田くんの昔の恋人さん」
さも“今の彼女は私です”と宣言するかのような、嫌な声の掛け方をするものだと思った。
「・・どうも」
「定期試験の勉強?まぁ受験とは関係ないのにお疲れ様ね」
「はぁ」
「こっちは卒業がかかってるから必死だけどね。宮田くんも絶対落とせないって最近は詰め込んでやってるわよ」
蓼丸は腕を組みながら、外国人のように肩を大きく竦めたリアクションを取って見せた。何かやたら身内感を見せつけられたようで不愉快に感じた奈々は、相手をするのも嫌になり、
「図書館ではお静かに」
というと、本の検索を再開した。
「はーいはい」
“宮田”のキーワードを耳にして奈々は一瞬固まったが、それを悟られないように振る舞う。しかし、本を探す指先に血が通わなくなっていくのを感じる。
「あ、そうだ。宮田くんちの紅茶かなり美味しいんだけど、あれってどこで買ったの?」
「・・・え?」
予期せぬキーワードが飛んできて、思考回路を停止させていく。
奈々は平静を装いながら、小さな声で「・・・あれは・・駅前の・・・」と呟くのが精一杯だった。
「駅前のどのへん?」
蓼丸がぐいぐいと前に詰め寄ってくる。
顔を見ないように本を凝視しながら、少し苛立った口調で奈々は、
「だから、図書館では静か・・・」
「ここにいたのかよ」
ひょっこりと顔を出し、不機嫌そうな声で会話に入ってきたのは他でもない宮田本人であった。同時に声を発した形の二人は無意識に目と目を合わせる。
そして宮田は蓼丸の会話の相手が奈々だったことを知るや否や言葉に詰まり、バツが悪そうに顔を背けた。
何か一言でも言ってくれたらと思ったが、宮田の他人行儀な態度は返って二人の関係性を生々しく表しているように思われて、十分に奈々の心を氷つかせてくれた。
宮田はすぐさま踵を返し、何も言わずに図書室入口の方へ引き返して行った。
「あら、宮田くん。迎えに来てくれたの?じゃね高杉さん♪」
それからは勉強なんて心境ではなかった。
別れてからもこんなふうに心を乱されて、本当に碌なことがない。
これでよかったと何度も思い込んで、でもやっぱりそばにいたいと思い直して。
宮田を傷つけるだけ傷つけて、何食わぬ顔で戻ろうなんて虫が良すぎる。
“宮田くんちの紅茶”
わざと言ってるんだってことくらいわかってる。
宮田の家に行って、少なくとも紅茶を飲む仲なんだってことくらい、そして年頃の男女二人が紅茶を飲むだけで済むわけないってことくらい。
そんなこと、わかってる。
相手が蓼丸さんならもう・・・諸手を挙げて降参するだけだ。
自分で撒いた種の責任は取らなくちゃいけない。
“縁がなかったんだな”
「・・・ほんとだね、たっちゃん」
ーーーーーーー
「なんか、またまた誤解されたと思わない?」
蓼丸がクククといたずらな含み笑いをしながら宮田に絡むと、宮田はいつもの無表情にプラス嫌悪感をのせて答える。
「わざとだろ」
「え?」
「担任がお前を探しに行けって言うから・・・一体どんな手を使った」
「ふっふー」
「それに・・・冷めたんじゃなかったのかよ」
腕に絡みついてくる蓼丸を振り解きながら宮田が呆れたように言うと、蓼丸は
「そうよ」
「じゃあどうして」
「別に、からかって遊んでるだけ。新しい彼氏もできたし宮田くんなんて全然要らないもん、もう」
「・・・・そりゃどうも」
「新しいカレは社会人でさぁ〜。すっごく優しいのぉ」
「・・・」
なんだかんだで蓼丸はあれから距離を取ることなく、前と同じように接してくる。前と同じ・・・すなわち宮田にちょっかいをかけるような小悪魔的な接し方だ。
「まぁ、私のこと今更好きになっても無駄よ?」
「随分な自信だな」
「まぁね。お宅の元カノは、今日さらに大打撃くらって家で泣いてるかもよぉ?」
ちょうど担任の待つ国語準備室の前まで着いたのもあり、宮田はピタリと足を止めて、あからさまに不愉快な顔を隠さずに
「じゃあな」
「わー、耳の痛い話は聞く気ないんだぁ。小さい男〜」
「うるさいな。お前いったい・・・」
「だから言ってるでしょ、前から」
そういうと蓼丸は、ファイティングポーズの真似をして、宮田の胸に向かって拳をぶつけた。
「何にもできない男をKO!」
「・・・ムカつく」
「もー本当に何度言ったらわかるんだろ宮田くんは」
「何がだよ」
「何かアクション起こしなさいよって言ってんの。井口に取られてもいいの?」
「井口?」
「高杉さんのクラスメイト。よく話してるの見かけるよ。もうすぐクリスマスだし、ロマンチックに過ごすかもよぉ?」
「・・・・」
そんなわけないと思いつつも、心のどこかで何かが面白くない。
「担任に呼ばれてんだろ、早く行けよ」
「いいのよ、新しい彼氏ってコイツだし」
「はぁ?」
「うっそー☆じゃあね〜」
準備室へ入り側、軽くウィンクをして消えていった蓼丸。その一連の言動に圧倒され、宮田はしばし言葉を失う。
全く冗談か本気かわからないけど、妙に人を煽るタイプのやつだ・・・と宮田はどっと疲れを感じながら教室へ戻った。
すでに推薦合格を決めたハルとフーコはさっさと帰宅、いつも一緒に勉強していたトモは今日は家の用事があると言って先に帰ってしまった。
というわけで、今日は図書館で調べ物をしながら一人で勉強していたわけだが、そういう日に限って人気の少ない哲学書コーナーで、バッタリと会いたくない人物に遭遇してしまう。
「あら、宮田くんの昔の恋人さん」
さも“今の彼女は私です”と宣言するかのような、嫌な声の掛け方をするものだと思った。
「・・どうも」
「定期試験の勉強?まぁ受験とは関係ないのにお疲れ様ね」
「はぁ」
「こっちは卒業がかかってるから必死だけどね。宮田くんも絶対落とせないって最近は詰め込んでやってるわよ」
蓼丸は腕を組みながら、外国人のように肩を大きく竦めたリアクションを取って見せた。何かやたら身内感を見せつけられたようで不愉快に感じた奈々は、相手をするのも嫌になり、
「図書館ではお静かに」
というと、本の検索を再開した。
「はーいはい」
“宮田”のキーワードを耳にして奈々は一瞬固まったが、それを悟られないように振る舞う。しかし、本を探す指先に血が通わなくなっていくのを感じる。
「あ、そうだ。宮田くんちの紅茶かなり美味しいんだけど、あれってどこで買ったの?」
「・・・え?」
予期せぬキーワードが飛んできて、思考回路を停止させていく。
奈々は平静を装いながら、小さな声で「・・・あれは・・駅前の・・・」と呟くのが精一杯だった。
「駅前のどのへん?」
蓼丸がぐいぐいと前に詰め寄ってくる。
顔を見ないように本を凝視しながら、少し苛立った口調で奈々は、
「だから、図書館では静か・・・」
「ここにいたのかよ」
ひょっこりと顔を出し、不機嫌そうな声で会話に入ってきたのは他でもない宮田本人であった。同時に声を発した形の二人は無意識に目と目を合わせる。
そして宮田は蓼丸の会話の相手が奈々だったことを知るや否や言葉に詰まり、バツが悪そうに顔を背けた。
何か一言でも言ってくれたらと思ったが、宮田の他人行儀な態度は返って二人の関係性を生々しく表しているように思われて、十分に奈々の心を氷つかせてくれた。
宮田はすぐさま踵を返し、何も言わずに図書室入口の方へ引き返して行った。
「あら、宮田くん。迎えに来てくれたの?じゃね高杉さん♪」
それからは勉強なんて心境ではなかった。
別れてからもこんなふうに心を乱されて、本当に碌なことがない。
これでよかったと何度も思い込んで、でもやっぱりそばにいたいと思い直して。
宮田を傷つけるだけ傷つけて、何食わぬ顔で戻ろうなんて虫が良すぎる。
“宮田くんちの紅茶”
わざと言ってるんだってことくらいわかってる。
宮田の家に行って、少なくとも紅茶を飲む仲なんだってことくらい、そして年頃の男女二人が紅茶を飲むだけで済むわけないってことくらい。
そんなこと、わかってる。
相手が蓼丸さんならもう・・・諸手を挙げて降参するだけだ。
自分で撒いた種の責任は取らなくちゃいけない。
“縁がなかったんだな”
「・・・ほんとだね、たっちゃん」
ーーーーーーー
「なんか、またまた誤解されたと思わない?」
蓼丸がクククといたずらな含み笑いをしながら宮田に絡むと、宮田はいつもの無表情にプラス嫌悪感をのせて答える。
「わざとだろ」
「え?」
「担任がお前を探しに行けって言うから・・・一体どんな手を使った」
「ふっふー」
「それに・・・冷めたんじゃなかったのかよ」
腕に絡みついてくる蓼丸を振り解きながら宮田が呆れたように言うと、蓼丸は
「そうよ」
「じゃあどうして」
「別に、からかって遊んでるだけ。新しい彼氏もできたし宮田くんなんて全然要らないもん、もう」
「・・・・そりゃどうも」
「新しいカレは社会人でさぁ〜。すっごく優しいのぉ」
「・・・」
なんだかんだで蓼丸はあれから距離を取ることなく、前と同じように接してくる。前と同じ・・・すなわち宮田にちょっかいをかけるような小悪魔的な接し方だ。
「まぁ、私のこと今更好きになっても無駄よ?」
「随分な自信だな」
「まぁね。お宅の元カノは、今日さらに大打撃くらって家で泣いてるかもよぉ?」
ちょうど担任の待つ国語準備室の前まで着いたのもあり、宮田はピタリと足を止めて、あからさまに不愉快な顔を隠さずに
「じゃあな」
「わー、耳の痛い話は聞く気ないんだぁ。小さい男〜」
「うるさいな。お前いったい・・・」
「だから言ってるでしょ、前から」
そういうと蓼丸は、ファイティングポーズの真似をして、宮田の胸に向かって拳をぶつけた。
「何にもできない男をKO!」
「・・・ムカつく」
「もー本当に何度言ったらわかるんだろ宮田くんは」
「何がだよ」
「何かアクション起こしなさいよって言ってんの。井口に取られてもいいの?」
「井口?」
「高杉さんのクラスメイト。よく話してるの見かけるよ。もうすぐクリスマスだし、ロマンチックに過ごすかもよぉ?」
「・・・・」
そんなわけないと思いつつも、心のどこかで何かが面白くない。
「担任に呼ばれてんだろ、早く行けよ」
「いいのよ、新しい彼氏ってコイツだし」
「はぁ?」
「うっそー☆じゃあね〜」
準備室へ入り側、軽くウィンクをして消えていった蓼丸。その一連の言動に圧倒され、宮田はしばし言葉を失う。
全く冗談か本気かわからないけど、妙に人を煽るタイプのやつだ・・・と宮田はどっと疲れを感じながら教室へ戻った。