38.電話の向こう側
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秒針の音がやけにうるさい。
ゴロリと寝返りをうって時計を見てみると、暗闇に蛍光のライトがボヤッと浮かび上がる。
時計の針はもう深夜2時をさしていた。
チッと舌打ちをして仰向けになり、カーテンから漏れる月明かりをぼんやり眺める。
このまま眠りに落ちてくれればいいのに、まぶたが下に落ちていく気配もない。
最近、眠りの浅い日々が続いている。
バイトして、ジム行って、バイトして、ジム行って。
別れてからも、何も変わらない毎日が続いているってのに。
一時的な別離なんじゃないかと事態を軽く考えたい気持ちもあって、そもそも全てが夢の中の出来事じゃないかというくらい、ぼんやりと実感がない。
それなのに、何かこう、透明な糸で体をぐるぐると縛られているように、体が重たく感じるのはなぜだ。
カーテンから漏れる月明かりが、部屋の中を微かに照らす。
眼球だけを動かして室内を見渡すと、嫌味のように月明かりのスポットライトを当てられた、白い電話の子機が目に入った。
“プルルルル・・・・”
と、こんな時間に鳴るはずもない幻聴。
かつては鳴っただけで、ため息が出ることもあったのに。
“ごめんね、忙しいのに”
電話越しに何度も聞いた言葉。
幻聴でますます目が冴える。
ジムから帰って来て、洗濯したり食器を洗ったり、時々勉強したり・・・
のんびり電話している時間なんてほとんどなかった。
時々少し余裕ができたときは、もうこのまま寝てしまいたい気持ちや、溜まってた雑誌をゆっくり読みたい気持ちがありながら、寂しそうにしている奈々の顔がふっと浮かんできて、半ば義務感で電話をかけたり、受けたり・・・。
電話の向こうで脳天気な話をする相手に時々、イライラしたことだってあったかもしれない。
そもそも、“電話の相手をしてやっている”というような義務感を隠そうともしなかった気がする。
一体何をそんなに話すことがあるんだ、と冷たい態度を取ったこともあったかも知れない。
実際、話の内容なんてどうでもよかったんだ。
電話をかけようと思う相手がいること、相手の声を聞くことが、こんなにも心を穏やかにする。
そんなことすらも、気づかなかったなんて。
“ごめんね、忙しいのに”
それが上部だけの取り繕った謝罪ではないと・・・・・
会いたい気持ちと申し訳ない気持ちが絡まり合った、切羽詰まった叫びだったと、よく考えればすぐにわかるはずのことを・・・・
「・・・バカ野郎」
深夜に放たれた呟きは、虚しく闇に溶けた。