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前編

「ぐっ……!」
「いよっしゃー! また私の勝ちー!」

 クリスタル・パレス内の訓練場にウラヌスの呻き声とヴィーナスの歓喜の声が響き渡る。ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶヴィーナスにジュピターが苦笑いを浮かべながら近付く。

「ヴィーナス、ウラヌスは手を抜いてるんだよ。ウラヌスの強さはあたしたちがよく知ってるだろ?」
「ぶー、そんなの分かってるわよー。でも勝ちは勝ちよ!」

 やいやいと言い合う2人を見ながらウラヌスは体を起こす。あぐらをかいたまま2人を見つめ、そして自身の掌に視線を落とすと眉を顰めた。そんなウラヌスの背後からそっと近付く影があった。

「切れ味、鈍っているんじゃなくって?」
「……まさか、仲間相手に本気になれるわけないだろ」

 ウラヌスは肩を竦めながら振り返る。そこには美しい頬笑みを浮かべたネプチューンが立っていた。
 よっ、と声を出しながら立ち上がったウラヌスはネプチューンの横に立つと柔らかく微笑んでその頬にキスをする。ネプチューンも嬉しそうに笑ってそれを受けると同じようにウラヌスへ返した。

「……でも、最近あなたの負け越しでしょう? 本当に、何も無いの?」

 ネプチューンは戯れ合いから真剣な顔つきに戻るとウラヌスを頭のてっぺんから足の先までゆっくりと見る。
 クリスタル・トーキョーが建国されてからヴィーナスは毎日ウラヌスに稽古を付けてもらい、そして1日の最後に模擬戦を行っていた。
 最初は勿論、太陽系セーラー戦士最強であるウラヌスにヴィーナスは手も足も出ない状況だったが何十年と繰り返すうちに徐々にその状況は逆転していった。まだ総勝ち数ではウラヌスが勝っているがここ最近は負け越し、それすらも逆転しそうになっている。
 それはヴィーナスが力をつけているという嬉しいことではあるが、だとしても最強の名を持つウラヌスが負け越すほどの事だろうかと疑問に思う。
 ヴィーナス含め、内部戦士たちはウラヌスが手を抜いているのだろうと思っているがネプチューンはそう思えなかった。
 同じように毎日鍛えているウラヌスの力が向上しない、むしろ衰退しているように感じているネプチューンはウラヌスの身に何かが起こっているのではないかと問う。
 しかしウラヌスは飄々としたままでいつもはぐらかして逃げてしまう。

「ねぇ、ウラヌス」
「何でもないよ。ちょっと疲れてるだけさ。……君が夜寝かせてくれないからね」
「っれは……! あなたが悪いんでしょう……!」

 ネプチューンの耳元で囁くとウラヌスは意地悪そうな笑顔を浮かべる。ネプチューンは顔を真っ赤にして拳を振るうがひょい、と簡単に避けられてしまった。

「何百年、何千年経とうと君は可愛いね」
「……何百年、何千年経ってもあなたはずるいわ」

 そりゃどーも、と笑うとウラヌスは踵を返す。去り際にヴィーナスとジュピターに声をかけるとそのまま訓練場を出ていった。ネプチューンは溜息を1つ吐くとウラヌスとは逆方向に踵を返した。
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