第3章番外編
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異常な日常
ホグワーツの異常な日常。
それはまず、朝の大広間から。
『おはようございます、血みどろ男爵』
「おはようございます」
「おはよう、Mr.スネイプ。それにMs.プリンス。君はいつも通り朝から元気で生き生きしておるな」
目を細めて自分のお腹に手を突っ込んでいるスリザリン寮4年生のユキ・プリンスを見るのはスリザリン寮のゴースト、血みどろ男爵。
ゴーストが生者のように動き回っているのがこのホグワーツの日常だ。
「これこれ、ユキ。私で遊ぶのもいいが、早くしないと朝食がなくなってしまうぞ?」
『それは大変だっ。行かなきゃ!涼ませてくれてありがとう、男爵』
「僕も失礼します」
バイバイと手を振って駆け出して行くユキと、血みどろ男爵にペコリと頭を下げてユキの後を追うセブルス。
「ユキ、みんな食事中だぞ。走るな」
『はぁい』
ユキは教育係セブルスに注意されて小走りにまでスピードを落とす。セブルスはこんなユキに朝から溜息だ。
はあぁ、まったく。ユキの奴は……
大広間には4列に長机が並べられていた。
ユキとセブルスは1番左端のスリザリンのテーブルに行き、2人並んで着席をする。
長机の上にはフル・ブレックファストが並ぶ。
ユキはトースト、セブルスはシリアルにそれぞれ手を伸ばし朝食の始まりだ。
『ふふ。甘ーい』
隣で幸せそうな声を出すユキに「これくらいで幸せな奴だ」と頬を緩めていたセブルスの視線が一点で止まる。
「また鼻にジャムついているぞ」
一口の大きさが大きいユキは口の中に食べ物を詰め込む時に顔のどこかにあたってしまうことがよくあるのだ。
『ん?』
「あっ馬鹿。手の甲で拭くなッ」
バシッとセブルスに手を掴まれて、口を尖らせるユキ。でも、その機嫌はセブルスがナフキンを手にとったのを見て直ぐに直る。
『拭いてくれるの?セブ優しい』
「はあ?」
思っても見ない言葉にセブルス少年は絶句。
ナフキンを手に持ったままピシッと凍りつく。
嘘だろ!?僕はただ、これで拭くようにって渡すだけだったのに……
いつもの自分なら「自分でやれっ」と言ってユキの顔にナフキンを投げつけてしまうところなのだが、今のセブルスはそうする事を躊躇していた。
目の前にあるのは目を閉じて、少々恥ずかしそうに顔を染めながら口元に笑みを作っているユキの顔。
いつも馬鹿ばかりやっている友人の今まで見たことのなかった可愛らしい顔にセブルスの胸はドキドキしてしまう。
ど、どうすればいいんだ……!?
それに今のユキ、キスを待っているみたいに見え……!?って僕は何を考えているんだ!!
自分の想像を追い払うように真っ赤な顔をブンブンと左右に振るセブルス。
『まだ~?って何やってるのセブ……あっ!危ないっ』
目を開けて顔を左右に振るセブルスに怪訝そうな顔を向けていたユキがピクッと反応して横を向く。
ユキの視線を追ったセブルスの口からあっ!と声が漏れる。
自分の方に向かって飛んでくるラグビーボール型のフランスパン。
「ユキ!!…………お前は……」
自分を庇うように自分の前に飛び出してきたユキに驚き、心配して声を上げたセブルスの声はお前って奴は、と言う呆れた声に変わる。
セブルスの目に映るのは、フランスパンを口でキャッチしたユキの間抜け顔だ。
「それ、責任もって食べろよ」
可笑しそうにふっと口角を上げるセブルスに親指を立てて任せとけ、と答えるユキ。
「ぷっ」
『アハハ!』
顔を見合わせて、同時にクスクスと笑い始める2人。
「うおおいっ!さっきのは反則だぞ!」
「お前は犬かよッ」
「2人とも、まずはパンを投げたことを謝りなよ……」
ユキたちが笑っている間にグリフィンドールの悪戯仕掛け人たちがスリザリンテーブルへとやってきた。
パンを投げたのは、言うまでもなくこの悪戯仕掛け人たち。
『あのねぇ。パンって言うのは投げるものではなく食べるものなの。食べ物で遊ぶなんてあんたたち、マナーがなってないわよ』
ゴクンと最後の一口を飲み込んでユキが言う。
「おい。ユキがまともな事を言ってるぜ?ジェームズ」
「本当だ。明日はトロールが降りそうだな」
『失礼ねッ』
「て言うかお前、食うの早すぎだろ」
『パンのこと?ありがとう、美味しかった』
「「(お礼言われた……)」」
急に真面目な顔でお礼を言われてジェームズとシリウスが面食らっていると彼らの耳に明るい声が響いてきた。
「おはよう!ユキ、セブ」
「っ僕のリリー!!今日も何て可愛いんだってうわっ!!」
手を広げてリリーにハグしに行こうとしたジェームズが一瞬煙に包まれる。
「ぷっ。うふふ」
「げっ。凄いことになってるぞ、ジェームズ!」
「うわーこれは何の呪文?」
「よくやったな、ユキ」
『へへーーん。凄いでしょ!でも、呪文じゃないんだなー』
笑うリリーに顔を顰めるシリウス、目を丸くするリーマスに満足そうに口の端をあげるセブ。そして得意そうなユキ。
彼らの目の前にいるジェームズは頭に黒い三角形の耳が生え、手は獣の前足、お尻からはしっぽを生やしていた。
「こ、これは何なんだにゃ。っ!?!?」
自分の語尾に驚いてパッと手で口を抑えるジェームズ。
半獣になった友人に全員笑いを堪えきれない。
「これって、ぷっ、もしかしてハロウィンのジョークグッズじゃない?」
『正解!』
涙を拭きながら言うリリーにユキがコクっと頷く。
ユキの説明によると、これはハロウィンの時に悪戯で使われる1日相手の体のパーツを猫に変えてしまうというグッズだった。
ちなみに、今の季節は6月。
「時期外れのコスプレ。どんまい、ジェームズ」
「にゃああああぁっ!!」
「アハハ、痛っ。じゃあな、ユキ。また授業でな」
シリウスにポンと肩に手を置かれて叫ぶジェームズ。
シリウスはジェームズから猫パンチを受けながら、ユキに女子生徒が卒倒しそうな笑みを投げかけて自寮のテーブルに戻って行った。
「ねえ、ユキ。あれ、僕がクリスマスに贈ったグッズだって言わないでおいてね」
「もっちろん」
2人が遠く離れたのを見てこそっと話しかけてくるリーマスにユキもこそっと返事を返す。
「僕もそろそろ席に戻るよ。今日は魔法生物飼育学の授業が一緒だったよね。またそこで会おう」
リーマスもユキに手を振ってスリザリンテーブルから去っていく。
そしてその場に残ったのはユキ、セブルス、リリーの3人。
「あのね、実は2人にプレゼントがあるの」
リーマスの背中を見送ってリリーが言った。
「実家の庭に咲いてあったマリーゴールドをふくろう便で送ってもらってね、硝子の中に閉じ込めたの」
『わあ!』
「とても綺麗だ」
じゃーんと手を出すリリー。2人は同時に声を上げた。
リリーの手の中にあるのはキラキラ光る2つのキーホルダー。
黄色とオレンジのマリーゴールドは縮小呪文で小さくされて透明な丸いガラスの中に閉じ込められている。
花はガラスの中で本来の色鮮やかさを止めたまま水々しく輝いていた。
「これはキーホルダーなの。マリーゴールドの花言葉は友情。2人にもらって欲しくて」
ユキとセブルスは少し恥ずかしそうに頬を染めたリリーからキーホルダーを受け取った。
光を反射させて煌く鮮やかな花に暫し見蕩れる2人。
『ありがとう、リリー』
「ありがとう」
「どういたしまして。夏休みに入る前に間に合って良かったわ」
リリーは大事そうにキーホルダーを握る2人を見て良かった、と頬を緩ませた。
「あ、予鈴だわ。またね、セブ、ユキ」
『またね』
「また後で」
予鈴が鳴ってそれぞれの教室へと移動を始める生徒たち。
「僕たちも行くか」
『私はこのブラックプティングを食べてから……』
「ダメだ。行くぞ」
『うわ~ん』
片手でカバン、反対の手でユキの手を引いて歩き出すセブ。
2人のカバンにはマリーゴールドの入ったキーホルダーが揺れていた。
***
今はお昼休み。
スラグホーン教授の私室に罰則内容を聞きに行ったユキが廊下を歩いていると、彼女の背中に悪寒が走った。
……またか。ハアァァ
だがしかし、悪寒に慣れると言っては変な話だが、ユキは体に感じるこの悪寒に慣れていた。
顔に苦笑を浮かべるユキは、廊下からさっと中庭に出て茂みの影に身を隠す。
「……消えてしまいました」
中庭に出て、悔しそうな表情をしながら辺りを見渡すこの少年の名はレイブンクロー寮2年生のクィリナス・クィレル。別名、ユキのストーカーだ。
ユキに異常な愛情を見せるこの少年。実はなかなか器用な男である。
ブツブツブツ
呪文を唱え出すクィリナス。すると、あちこちの草が生きたようにうねうねと動き始めた。
耳をすませば、茂みの中から聞こえてくる忍び笑い。
『ぷっふふ、ふぁっ』
「……」
『くふっあはは。ふふふ』
「…………」
『ぷふっ。あははッてどうしてこっち来ないのよ!』
ばさっと音を立てて茂みの中から飛び出すユキはご立腹中。
人差し指をビシッとクィリナスに向けながらクワっと口を開く。
『あんたねえ!私の場所が特定出来たんだから見つけに来なさいよ!なーんで私がいる所分かっているのにじっとして動かないわけ!?私の後ついて来ていたのは分かっているのよ!』
一気に言ってぜえぜえ息をするユキの前でキョトンとしているクィリナスは、
「流石はユキ先輩。足に消音呪文をかけておいたのにご存知だったのですね……ですが、先ほどのおっしゃったこと、ちょっと意味が分かりません。私はあなたに用があって後をついて歩いていたわけではないのですが……」
と不思議そうな顔で言った。
『え?じゃあ何で私の後を……?』
「趣味です」
『趣味って何ですか!?真顔で変なこと言わないでよ怖いですよ!』
ぶっ飛んた答えに思わず敬語になるユキは天を仰いだ。
任務でもなく、尾行の練習でもなく誰かをつける人間がいたのね。
あは、あはははは……私の理解を超えてるわ……
「ユキ先輩」
『ん?』
「せっかくこうして対面したので少しお伺いしたいのですが」
『何かな?(なんだ話あるんじゃない!)』
やはり自分に用があってつけてきたのだ、とホッとしたユキだったが、その顔はクィリナスの話を聞いているうちに段々と青くなっていく。
「今日の夕方のクィディッチ練習、練習場所が湖に変更になって更に予定より開始時間が15分早くなったと聞きましたが終わる時間も15分押しに……って、あれ?ユキ先輩?」
なぜ朝練後のロッカールームで伝えられた変更事項をクィリナスが知っている?
なぜ?ナゼ?何故!?!?
ぞぞぞっと背中に感じた悪寒。身の危険を感じたユキは全力でクィリナスの前から逃げて行ったのだった……
『うわっ』
「痛っ」
そのまま走り続けていたユキは廊下の角を勢いよく曲がった瞬間どしんと尻餅をついてしまう。
『痛い』と呻きながら顔を上げたユキの前にいたのは、
「ユキ、先、輩っ!またあなたれふかっ」
怒りの炎を背中に背負いながら鼻を押さえているレギュラスの姿だった。
あーー……やっちゃったみたい。
レギュラスの足元に視線を向けるユキ。
ユキと同じように尻餅をつくレギュラスの真下の床にポタポタと落ちる赤い血。
気づけばユキの鼻からもポタポタポタ。
ユキは慌てて、レギュラスはヨロヨロと立ち上がる。
『ご、ごめんレギュラス~』
「うわああっちょっと!鼻血飛ばしながらこっち来ないで下さいッ」
『ご。ごめん……』
「……」
『……』
「…………ぷっ」
『???』
急にククッと笑い出すレギュラス。
そんなレギュラスの前で頭にハテナマークを
浮かべて立ち尽くすユキ。
『どうしたの?』
訳が分からず眉を寄せながら尋ねてくるユキにレギュラスは笑って出た涙を拭きながら口を開く。
「す、すみません。でも、ユキ先輩の顔があまりにも酷いから」
『酷いって……自分だって手で覆っているけど鼻血出してるくせに』
拗ねたようにユキがそう言った後、暫し無言で見つめ合う2人。
『ぷっ。フフフ』
「ハハ」
鼻血を出しながら廊下で笑い続ける2人の姿は誰にも見られることはなかったが、それはそれはシュールな光景。
その事に気がついた2人は益々笑いが止まらなくなってしまう。
『エピスキー』
「ありがとうございます」
笑い終えた後、レギュラスと自分に治癒呪文をかけたユキは礼を言うレギュラスに首を左右に振る。
『お礼なんか言わないで。走っていた私が悪かったんだから』
「珍しくしおらしいですね」
『珍しくだなんて酷いなぁ』
傷が癒えて先に立ち上がったレギュラスが拗ねたように口を尖らせるユキの頭をポンポンと撫でた。
ぽっと顔を赤くするユキにレギュラスは満足顔だ。
そんな彼はさらにユキを苛めてやりたいと、ユキの手を取り、自分の指とユキの指を絡めて手を繋ぐ。
『レギュラス?』
不思議そうな顔で見るユキにレギュラスはニコリと笑う。
「これで廊下を走らないようにユキ先輩をコントロール出来ます」
『も、もう走らないのに……』
「信用できません」
『先輩相手に酷い後輩だ』
「いいんですよ。ユキ先輩相手ですから」
歌うように言って、レギュラスはユキの手を引いて歩いて行く。
まだ口を尖らせているユキ。だが、足取りはレギュラスと同じく軽く弾んでいる。
キーンコーン ゴーンゴーン
「あ、予鈴ですね」
『ホントだ。レギュラスは次の授業何?』
「魔法薬学です」
『私もそっち方向なんだ。玄関ロビーまで一緒に行こう!』
中庭に面した渡り廊下を急ぐ2人。
ホグワーツの午後はこうして穏やかに過ぎていくのだった―――――
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
マリーゴールドには「別れの悲しみ」という花言葉もあるそうです。