「其の時、アダムとイブはその実を口にした」



 一目見た瞬間から、君から目が離せなかった。

 川岸で項垂れる君は、僕と同じ白銀の髪をしていた。それが何だか嬉しくて、思い切って近付いて見たら、君は右側の髪を一房垂れさせて、斜めに切り揃えた前髪をした随分と個性的な髪型をしていた。
 今はこの様な髪型が流行っているのか、新たな疑問が日記に増えた。


 然し、こんなにも至近距離に居るのに君は全く持って気づく様子が無い。少し意地になった僕は、悪戯しようと顔を覗き込んで、君の瞳が目に入った僕は思った。

 ―――ああ、綺麗だ。
 秋の暁紅ぎょうこうの中で一際、月光を放ち乍ら浮かぶ月の船。溺れること無く、輝きを保ち浮かんでいる月は、僕が知るこの世界の何よりも美しかった。

 早く、少しでも早く、そんな君と話がしたいと僕の心を急がす感情が支配して、目と鼻の先まで近づいていたのを忘れて遂に僕は君に声を掛けた。
 そしたら君は驚いて、地面にお尻を強打させてしまって、後からしまったと後悔をした。
 それで僕は怒らせてしまったかなと思ったけど、ただ君は僕を咎めること無く眉を下げただけだった。

 後から君の口から聞いた、自身の生い立ちについては胸を痛めた。だけど僕が出来ることは限られていて、慌てて君に別の話題に切り替えさせた僕は不甲斐ない。


 それから君は、"中島敦"と名乗ってから僕の名前を聞いてきた。
 本来ならば、名前を名乗り返さなくてはならないのだろうが、僕は先に君の名前は漢字でどう書くか聞いた。なかは、中秋の中と書いて、じまは、島国の島。そして、あつしは敦。名は体を表すって言うけど正にそうだと思った。
 率直に思った綺麗だと云う言葉を伝えると、君は酷く照れて僕の名前をもう一度聞いて来るから、君の苗字を借りることにした。

 紬藤 珀兎。


 苗字何てモノが分からない僕には、君から借りた苗字は大切な宝物だ。
 ふう。それにしても、久し振りにこの世が心の底から楽しいと思えた。それに、願いも一つ叶うことが出来た。

 少しでも僕は、君と××になれたのなら嬉しいな。




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