「其の時、アダムとイブはその実を口にした」



 生まれて此の方、僕は孤独だった。
 孤独とは自分と他者の捉え方によって大きく違う。その中で例えるならば、自己疎外。もしくは自己拒否からの孤独。形容するのなら僕にはこれが一番合っているだろう。

 まるで周囲から僕を遠ざけるかのような、窓もドアもない、ボロボロの屋根から射す光に照らされる一台のピアノがある廃れた部屋。唯一救いがあったのは、僕が今書いている日記と、ピアノがあった御蔭で退屈しなくて良かった。
 だけどいつも独りぼっちな僕は、自分は望まれていない、或るいは邪魔な存在なのではないかと日々悩み続けていた。


 僕は只、友達が欲しかった。

 共に笑い、色々な話に花を咲かせ、時には喧嘩をし許し合えることが出来るような友達が。
 寂しかったんだ。他者との関わりを閉ざされ、人と出会い話すことを禁じられた僕は。恋しかったんだ。たった小さな繋がりでも感じられた人の温もりが。

 ―――××たい。


 遂に僕は禁を破ってこの部屋を出ることにした。古惚けた木の壁は少しの力で人一人抜け出せれそうな隙間を簡単に作ることが出来た。
 そうして、ゆっくり瞼を開き、飛び込んできた光景に僕の世界は一気に色づいた。
もう何年も見ていなかった天に広がる、澄みきった青い空。その中で溺れることなく、一際輝きを放つ日輪。

 何とも言えない笑いが込み上げてきた。この胸の底から湧き上がる感情を否定するつもりはないけれど、ただただ悲哀を僕は感じた。だからと言って、ここで胸を打ち拉がれているのは時を無駄に過ごすだけだ。


 探しに行こう、方舟に乗って。
 僕が望んだ願いを見つけるために。





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