天才は幼馴染と野球から逃げられない②


「バッチ来ォーい」


 山…山……えーと、なんでもいいか。
 ヤマの身に付けたバッティンググローブに目を輝かせて、早速真似をして、手に付けてバットを構えて見事に空振る圭を、ベンチに寝そべりながら眺める。三回外しただけで拗ねて戻ってきた圭が、俺に覆いかぶさって倒れてきたけど、普通に暑いし重たいから足で蹴落とす。
 転がり落ちた圭が、ちょっと真白ちゃん!?とか、ぎゃーぎゃー騒いでるけど知らない。そのまま、葉流火に首根っこを掴まれた圭がずるずる引き摺られて行く。ご愁傷様。葉流火が俺にも視線を寄越してきたけど、そっぽを向く。

 そもそも、今日はどうしてもと葉流火がしつこいから見学にきただけ。
 俺は野球をやるとは一言も言っていない。それが分かっているからか、葉流火もヤマもそれ以上は何も言ってこないけど、そわそわした視線は感じる。そんな視線から逃れるようにうつ伏せに姿勢を変えれば、日差しで傷んだベンチが、ぎしりと音を立てた。
 圭が上手く打てないのは、記憶が無いのもそうだが、左打ちだからだ。今の圭は右で打っている。別に俺が口に出さなくても、そろそろ駄々をこねる圭を見兼ねて葉流火が指摘するだろうから、俺は何も言わない。


「…――いい天気」


 聞き馴染んだ、バットが球を捉えた音が鼓膜を震わす。腐るほど肌で感じた、青空へ飛んでいくボールの感覚。グラウンドから地面に目を伏せれば、微睡むように、瞼が重くなる。
 そしてそのまま、顔の近くで弄んでいたボールをつん、と人差し指で突けば、ころんと誰かの足先まで転がり落ちていった。

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