元生徒副会長は迎え入れる




「おや、天霧君。おはようございます」
「……何故、警察官の格好をしている?」

 朝登校するなり、警察官の格好をしたアイツが教卓の前に立っていた。コイツのコスプレ衣装の数はどれだけあるんだ。

 バリエーションが豊富すぎて、服屋でも開けるのではないか。


「最近、皆さんフリーランニングをやってますね。せっかくだから、それを使った遊びをやってみませんか?」
「ケッ、遊びだァ?どーせ、ロクな」

 ロクな物じゃない、と言おうとした竜馬の口を触手が拒む。


「ケイドロです!裏山を全て使った3D鬼ごっこ!」
「ケイ、ドロ…?」

 それは、誰もが子供の頃一度は遊んだことがある遊戯だった。追い掛ける警官役は、アイツと烏間先生。俺達は、警察官から逃げる泥棒役。

 制限時間は、一時間目の間。
 全員を逮捕タッチできなかった場合、烏間先生の奢りで御馳走になれる。ただし、全員が捕まった場合は宿題が二倍になる。


「ちょっと待ってよ!殺せんせーから一時間も逃げれるかよ!」
「その点はご安心を。最初に追うのは、烏間先生のみ。先生は校庭の牢屋スペースで待機し、ラスト一分で動き出します」

 与えられたハンデに、皆がやる気を出す。それにしても、ラスト一分か。コイツの場合、一分でも全員を逮捕して見せるような気もするが。

 まあ、その前に烏間先生から逃げられれば、の話だが。


――

 この裏山は、地面が柔らかくトレーニングに向いている。試しに向かおうとしている反対方向に足跡を無数に付ける。

 地面を踏み付けたことにより、俺の足跡がくっきりと残った。
 先生は、決して僅かな痕跡を見逃さない。


「天霧さん、岡島さんの他六人が逮捕されました!」
「もうそんなに?……いや、そうか。ありがとう、律」

 スマートフォンの画面に表示されているメンバーを確認し、電源を落とす。やはり、烏間先生は強い。生身の人間が、たった一人でこれだけの人数を短時間で捕まえた。

 極力、木の枝を折らないように岩場を乗り越え移動する。


 ケイドロは、牢屋に捕まっている泥棒にタッチすれば解放できるが、この場合は非合理的だ。牢屋の前には、あの門番が居るからな。

 助けに行けば、自ら捕まりに行くようなものだ。


「せっかくの勝負だ」

 宿題が増えようがどうでもいいが、勝負に勝ちたいと思うのは構わないだろう。



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