元生徒副会長は迎え入れる



「二学期から教える、応用暗殺訓練がもう1つ増える。フリーランニングだ」
「フリー…ランニング?」

 脚が完治した俺は、久し振りに体育に参加していた。授業中、聞き覚えの無い言葉に中村が首を傾げる。

 ……そうだな。
 例えるなら、パルクールと言えば聞いたことがあるかもしれない。

 多少違いはあるが、近しいものだ。


「例えば、今からあの一本松まで行くとしよう。三村君、大まかでいい。どのように行って何秒かかる?」
「えーと、この崖を降りて十秒。そこの小川は狭いとこから飛び越えて右の方から回り込んで、最後にあの岩を登るから…一分で行けたら上出来ですかね」

 意見を口にした三村に、時間を計るように烏間先生はストップウォッチを渡す。そのまま、先生は崖ギリギリの所まで歩いて俺達の方に振り返る。

 一歩でも間違えれば転落してしまいそうで、息を呑む。


「これは、一学期でやった訓練の応用だ。フリーランニングで養われるのは、自分の身体能力を把握する力、受け身の技術、目の前の足場の距離や危険度を正確に計る力」

 片足を足場の無い空中に浮かせ、ぐらり、と烏間先生の身体が傾く。


これ・・が出来れば、どんな場所でも暗殺が可能なフィールドになる」

 驚いて皆揃って崖下を覗き込むと、先生は華麗に空中で回転したのち受け身をとって、川の面する大岩を横走りし、木の上まで跳躍して息を吐く間も無く一本松の所へ到着した。

 三村の持つストップウォッチに表示されているのは、たったの十秒。


「す、すごい」
「道無き道で行動する体術。熟練して極めれば、ビルからビルへ忍者のように踏破することも可能になる」

 だが、慣れない技術は危険と隣り合わせ。危険な場所や裏山以外で試したり、教えた以上の技術を使うことは厳禁とする、と浮き立つ皆に釘を差し、訓練は始まった。

 最初は、基本の受け身から。


「っ、い゛」

 久し振りに両足を使うせいか、上手くバランスを取れず背中を打った。今まで当たり前に出来ていたことが出来なくなって、無性に落ち着かない。


 これでは、駄目だ。

 今日一日で、以前の感覚を取り戻す。



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