元生徒副会長は迎え入れる
「……また、竹林のスピーチ?」
翌日の朝、俺達は昨日と同じように体育館に集められた。そして、昨日A組へ移動したばかりである壇上に立つ孝太郎の姿に、クラス関係なく困惑している。
かく言う、俺も少しばかり困惑していた。
「僕の居たE組は、弱い人達の集まりです」
昨日の放課後、孝太郎の様子を見に行ったが、学秀と二人で親密に話していただけだった。
「学力と言う強さが無かったために、本校舎の皆さんから差別待遇を受けています」
見ている限り、学秀が孝太郎に何か吹き込んでいる動作は一切なかった。そうなると、理事長か。一体、今度は何をさせるつもりだ。
すぅ、と深く息を吸って、マイクの前で孝太郎が笑う。
「でも僕はそんなE組が、メイド喫茶の次ぐらいに居心地よいです」
ざわついていた体育館内が一斉に静まり返る。せっかくA組に昇格したというのに、何を言っているんだと、他のクラスは思っていることだろう。
全校の前で、理事長も見ている中で、己の思いを述べる姿に笑みが浮かぶ。
「僕は強くなりたくて、認められたくて嘘をついていた。でも、E組の皆はそんな僕を何度も様子を見に来てくれた」
何だ、隠れて見ていたつもりだったがバレていたのか。俺達の隠密行動は、まだまだ甘いらしい。孝太郎は用意されていた原稿から、俺達に視線を向ける。
ステージの端で、学秀が忙しなく動いているのが見えた。
「家族や皆さんが認めなかった僕のことを、E組の皆は同じ目線で接してくれた。強者を目指す皆さんを、正しいと思うし尊敬します」
不安気に孝太郎を見ていた、茅野と神崎が顔を見合わせて笑う。
「でも、もうしばらく僕は弱者でいい」
「――竹林、」
足早に学秀が、壇上に向かって歩いて行く。しかし、学秀は孝太郎が手にしている表彰盾を目にして足を止めた。
どうやら、あの表彰盾は理事長の私物のようで、学秀の顔色が一変する。
「理事長は本当に強い人です。全ての行動が合理的だ」
腹部に隠し持っていたナイフを、表彰盾に向かって振り下ろす。ガラスで象られた理事長の今までの功績を示すソレは、あっけなく砕け散った。
誰もが目にした、校内での問題行動。
「これで、僕はE組行きですね」
空白だった部分が、ピタリと埋まる。
欠けたピースが見つかって、ようやくパズルが完成した。