元生徒副会長は迎え入れる
「…――っ、なんなんだよアイツ!」
静まり返った教室に、陽斗の怒声が広がった。怒りを露わにしているのは、陽斗だけではない。
始業式での孝太郎の演説に、口々に不満を漏らす。
確かに、あの演説は酷いモノだった。
あれでは、E組を差別してきた人間と変わらない。
孝太郎は演説の中で、このクラスを地獄だと言った。人によって考えは違う。それでも俺は、このクラスが地獄だとは思えない。
寧ろ、本校舎に居た方が地獄だった。
「言わされたにしたって、あれは無いよね」
「竹林君の成績が急上昇したのは確かだけど、それはE組で殺せんせーに教えられてこそだと思う。それさえ忘れちゃったのなら……私は彼を軽蔑するな」
今回の一件は、誰もが、ああ、そうですか。そうやって言ってやれない程に、納得できないものだった。
「ああまで言われちゃ、黙ってらんねぇ!!放課後、一言言いに行くぞ!!」
―――
「また明日な、竹林!!」
「ああ」
手を振るA組の生徒に、孝太郎は笑って挨拶を返す。新しいクラスで、孝太郎は上手くやっているようだ。だからこそ、俺達は分からなかった。
何故、俺達に一言も言わずにA組へ行ってしまったのか。
「おい、竹林」
「な、何か事情があるんですよね?」
真っ先に声を掛けた、陽斗と奥田を孝太郎は一見する。それから俺達に視線を遣り、しばらく黙り込んでいた孝太郎は重々しく口を開いた。
「……僕の家はね、代々病院を経営している。兄二人も揃って東大医学部。全て"出来て当たり前"の家で、それが出来ない僕は家族として扱われない」
ああ、だから孝太郎は離島で看病する手際が良かったのか。話を聞く限り、孝太郎の家系はどこか椚ヶ丘中に似ている。
どれだけ努力をしても、その努力が家族にさえ認められない。
「昨日、初めて親に成績の話をしてE組から抜けれることを報告した。僕にとっては地球の終わりより百億よもり、家族に認められるほうが大事なんだ」
「……っ」
孝太郎は、孝太郎なりに複雑な事情があった。E組を抜けた理由を知った今、誰も孝太郎に声を掛けられなかった。
「裏切りも恩知らずもわかってる。君達の暗殺が上手くいくことを祈ってるよ」