元生徒副会長は自覚する



 残り少ない夏休みが終わり、二学期の始業式が始まる。久し振りに訪れた本校舎の体育館は、空調が効いていて涼しい。

 俺が松葉杖を突いているせいか、やけに視線が集まる。
 眉根を寄せて溜息を吐けば、僅かに目線を逸らされるが、それでもまだ遠慮気味に見られる。


「――、司」

 酷く掠れた声が、耳に届く。ああ、成る程。だから俺を、俺達・・を見ていたのか。思考を巡らせていると片方の腕を掴まれる。

 振り返って久し振りに見た学秀は、心なしか目線が高くなった気がする。


「……どうしたんだ、その怪我」

 学秀もこれが気になったのか。

 嘘を吐くのは嫌いだが、だからといって事実を話すわけにもいかない。どうするか黙っていると、紫紺の瞳がすぅ、と細められた。


「話せないならいい」

 そうは言っているが、俺に向ける眼差しは納得いっていないようだ。すまない、学秀。これだけはお前には、話せない。


「学秀、」
「だが、もし君がE組で何か危険を伴うことをやらされているのならば、僕は、僕の持てる力を全て使って――君を、A組へ取り戻す」


「……んだよ、あの野郎」

 ステージ裏に向かう学秀の背中を睨みながら、寺坂―――竜馬が陽斗の前に並ぶ。珍しいな。学秀があそこまで感情的になるのは。

 それに、一つ気になる。
 学秀は、俺を"A組へ取り戻す"と言った。

 理事長が存在する限り、それは不可能だ。あの人が、裏で手を回さない限り。



「さて、式の終わりに皆さんにお知らせがあります」

 長い始業式もそろそろ終わる。お知らせと言っても、いつも殆どは俺達に関係がないことばかりだった。


「今日から、三年A組に一人仲間が加わります」

 ほう、A組にか。B組から繰り上げか、転校生のどちらかだろう。だが、荒木の次の一言に、俺達は衝撃を隠せない。


「昨日まで彼はE組にいました」
「……え?」

 俺達のクラスの中から、か。先程、学秀が何故ああ言ったか理解できた。俺は自分が並ぶ列に走らせ、欠けた存在を捜す。

 そうか、お前か。


「では彼に喜びの言葉を聞いてみましょう」

 お前がそう選択したのなら、俺は何も言わん。だが、一つだけ聞きたい。お前を仄めかしたのは、一体誰だ。
 

「――竹林孝太郎君です!」


 なあ、孝太郎。
 


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