元生徒副会長は自覚する
「かき氷を一つ」
「あいよ。五百円な!」
元気が良いオヤジさんに金を払い、出来上がったかき氷を受け取る。邪魔にならないよう片手で松葉杖で木の傍まで行くと、寄りかかって一口掬う。
レモン味のシロップが冷えた氷に染みて、とても美味い。
屋台の前を行きかう人達を眺めながら口元に運んでいると、あっと言う間に無くなった。
「あ、司君も来てたんだ!」
「ああ」
わたあめを両手に、浴衣姿の茅野が潮田――いや、渚と一緒に傍まで歩いて来る。
「いいのか、見て周らないで」
「うん。もう十分見てきたから。それに、ホラ」
楽しそうに笑う渚の視線を辿る。そこには、くじ引きの屋台の店主に、当たりは本当に入っているのかと詰め寄るカルマの姿があった。
店主は、怯えて否定を繰り返す。
祭りに来てまで、カルマは何をやっているんだ。
「皆を見てるのも楽しいんだ」
「……そうだな」
確かに、分かる気がする。カルマから視線を動かして、他の皆を見る。少し先にある射的屋で、射撃が得意な二人は、出禁を喰らって落ち込んでいた。
ふっ、と笑いが口から溢れてしまう。
その近くでは、陽斗と悠馬が大量に金魚を掬っている。何に金魚を使用するのか分からないが、器用なものだ。
和紙が一度も破れていない。
「――あっ」
上空で大きな爆発音が鳴り響いて、弾かれるように視線を向ける。夜空に咲き誇るように、大きな花火が打ち上げられた。
花火が地上を照てらし、煌いて流れて行く。
「綺麗だな」
「うん」
続けて打ち上げられる花火を静かに眺める。両親以外の人間と花火を見るのは、この夏が初めてだった。祭りに来れなかった皆も、この花火を見ているのだろうか。
最後に打ち上げられる、大きな連続花火。
「本当に、綺麗だ」
来年もまた、皆でこの花火を眺めたい。
心の中で呟いた密かな想いは、夏の残響と共に吸い込まれていった。