元生徒副会長は自覚する
「説教は後だ。ヘリが時期に到着する。さっさと、ここを脱出するぞ」
潮田の前で諭される俺を一目見ると、烏間先生は携帯を片手に待機するよう指示を出す。はあ、帰ったら烏間先生にも怒られるのか。
普通なら怒られるのは厭だが、何故か頬が緩んだ。
「おいおい、このまま生きて帰れるとでも思ったか?」
「……!!」
背後の扉が、重々しく開く。一斉に振り返ると、上へ向かう為に戦闘した三人が青筋を立てて俺達を睨み付けていた。
「お前達の雇い主は既に倒した。戦う理由は、もう無いはずだ」
「そーだな。やめるか」
戦闘態勢に入った俺達の前で、烏間先生が相手と交渉する。相手方が、そう簡単に意見を呑むとは思え―――は?
今何と言った。"やめる"と、そう言ったか。
「やめるついでに教えてやる。お前等に盛ったのは、食中毒菌を改良したものだ」
「え?」
つまり、最初から薬は必要なかった。そこまで聞いて、自分がした行動を思い浮かべて乾いた笑いが出たと同時に、安堵した。
この人達は、俺達が思っていたよりもまともな人間だ。
「でも、いいの?鷹岡の命令に逆らって」
「アホか。プロが何でも金で動くと思ったら大違いだ」
岡野の疑問を、拳銃を咥えた男は一蹴りした。カタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか、命令違反でプロとしての評価を落とすか。
どちらか二つを秤に掛けた時、どちらが今後にリスクが高いか。
「……信用するかは、生徒達が回復したのを見てからだ。事情も聞くし、しばらく拘束させてもらうぞ」
真っ直ぐ相手を見据える烏間先生の上空に、ヘリコプターの影が差す。
「ま、しゃーねえな」
――
それからは早かった。烏間先生が連絡したヘリから軍の人間が降り、今回の首謀者である鷹岡と雇われた人間を拘束し運び出す。
ヘリに乗る際、あの三人は厄介な暗殺予告を俺達に残した。
本気で殺して欲しくば、偉くなれ、か。
「……なんて言うか、あの三人には勝ったのに勝った気しないね」
やれやれ、とカルマは呆れたように肩を落とし、俺に向かって手を差し伸べた。
「ほら、早く皆に教えてやんないと」
「ああ」
痛む脹脛を庇いながら、俺もヘリに乗り込んだ。揺れる機内が眠気を誘い、うつらうつらと、舟を漕ぐ。まだ、駄目だ。伝えなければならない。
睡魔と戦っていると、頭を肩に乗せられた。
「寝ていろ」
閉じかけた瞼を持ち上げると、先生は笑った。色々、狡いなぁ。