元生徒副会長は自覚する

「屋上へ行こうか。歓迎の用意がしてあるんだ。ついて来てくれるよなァ?お前らは、俺の慈悲で生かされているんだから」
「チッ」

 鷹岡の手元に握られたリモコンを見て舌打ちを零す。癪だが、この男に従うしかない。俺達は屋上へ向かって歩き出す、鷹岡の後に続いた。

 外に繋がる扉を開けると、強い風が髪を揺らす。


「生徒達をウイルスで脅すこの凶行。気でも違ったか、鷹岡!!」
「おいおい、俺は至極まともだぜ?」

 鷹岡の計画は、聞くに堪えないものだった。対先生弾が詰まったバスタブに、アイツを抱きかかえた茅野を入れ、その上からセメントで生き埋めにするだと。

 ふざけるのも大概にしろ。
 コイツの言っていることは、もはや人間がすることじゃない。

 人間の皮を被った、悪魔だ。


「全員で乗り込んで来たと気付いた瞬間は肝を冷やしたが、やる事は大して変わらない。お前等を生かすかは俺の機嫌次第だからな」
「許されると思いますか。そんな真似が」

 アイツが鷹岡に向ける視線は、俺達が危険に晒された以前よりも、殺気に満ちている。


「お前らが俺にした仕打ちに比べりゃマシだろ」


 実にくだらない。

 周囲からの酷評も、鷹岡が自ら起こした愚行によるもの。この男は救いようがない。自分が正しと思い込み、身勝手な逆恨みで害をもたらす。

 潮田を選んだのも、完全に体育の授業での一件からの私怨だ。


「チビ、お前一人でこの上のヘリポートまで登ってこい」

 そこまで言い終えた鷹岡の濁った眼が、俺を捉える。


「お前は後で相手してやる。思春期の息子を相手するのも、父親の仕事だからな」

 ぶわっと全身に鳥肌が立つのを感じた。
 何が父親だ、腹立たしい。

 俺の父は厳格で、家族のことをいつも第一に考えている人だった。気に入らなければ暴力を振るう人間とは違う。


「あはは……、まだ続いてたんだね」
「気分が悪い」

 苦笑する潮田の隣で、鷹岡の背中を睨み付ける。そんな俺を横目で見ると、潮田はその背中を追いかけようとした。


「待て」

 咄嗟に俺は、華奢な肩を掴んでいた。掴んだのはいいが、こんな時どう言った言葉を掛ければいいのか分からない。

 頭を悩ませていると、小さな手がやんわりと俺の手を外す。


「潮田、」
「大丈夫だよ。話を合わせて、治療薬を壊さないよう渡してもらうよ」

 違う、違うんだ。言いたかったのはこんなことじゃない。ヘリポートに向かう潮田を見ながら、拳を握る。

 何だか、嫌な予感がする。



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