元生徒副会長はプロの暗殺者と対峙する
「ふぅ、大分体が動くようになってきた。まだ力半分ってところだがな」
「力半分で既に俺等の倍強ぇ」
九階に居た見張りを、背後から烏間先生が首を絞めて気絶させる。本調子を取り戻し掛ける先生に木村が若干引いているが、俺も正直引いた。
本気の烏間先生は、どれだけ強いんだ。
「皆さん、最上階部屋のパソコンカメラに侵入しました。上の様子が観察できます」
良いタイミングだ、律。
全員でスマホを取り出し、映し出された映像を確認する。
映像の中心には、男が一人煙草を吸っていた。胸糞悪いことに、パソコンに映されているのはウイルスに感染した皆の姿だ。
「チッ、変態野郎が」
「……寺坂君」
怒りに震える寺坂に視線を向け、アイツは冷静に黒幕について分析する。俺達が対峙した男共は、コイツを殺す為に雇った殺し屋。
標的がこんな姿に変わり果てたおかげで、見張りと防衛に回したのだろう。
本来のとは領域外の仕事で、フルに能力が発揮できなかった。加えて、俺達が子供だとて油断していたのもあるだろう。
ただ、最初から本気で挑まれていたならば俺達は敗北―――即ち、死んでいた。
恐らく、黒幕は殺し屋ではない。
―――
いよいよ、黒幕が待ち構える最上階に辿り着く。九階の見張りが持っていたカードキーでロックを解除し、部屋の中を確認する。
部屋の中は広く、遮蔽物が多い。
烏間先生がサインを出し、"ナンバ"で気配を消して接近する。
「痒い」
黒幕が独り言を呟く。一瞬ばれたかと思ったが、男はこちらを振り向かない。男の近くには、配線のついたスーツケース。
恐らく、あそこにウイルスの治療薬が入っている。
息を殺して、視線を机にずらす。
黒幕のすぐ傍の手元に、起爆リモコンある。アレを押されたら終わりだ。烏間先生とアイコンタクトを取り、拘束する準備に取り掛かる。
「思い出すと痒くくなる。でも、そのせいかな。傷口が空気に触れるから感覚が鋭敏になってるんだ」
ゆっくりと、黒幕が振り返る。
頬には爪で引掻いたような傷跡。呆然と立ち竦む俺達の前で、黒幕は大量のリモコンをばら撒いた。
「どういうつもりだ、――鷹岡!!」
忘れるはずが無い。
俺達の前で、解雇されたはずの男。烏間先生が問い詰めると、鷹岡は不気味に笑った。
「裏口から来るなんて、悪い子達だ。仕方ない。夏休みの補習をしてやろう」