元生徒副会長はプロの暗殺者と対峙する


千葉side


「また学年トップだってよ、天霧」
「えー、凄い!」


 椚ヶ丘中に入ってから、天霧の名前を聞かない日はなかった。騒ぎ立てるクラスメイトの会話を聞きながら、机に伏せる。

 天霧は成績優秀で、生徒会に入るほど人望が厚い。
 聞くところによると、運動神経も良いらしい。


「……はぁ」

 自分でいうのもアレだが、俺は考えていることを口に出すことが少ない。そのせいか、周囲から勝手なイメージを押し付けられる。否定するのも面倒くさい。

 そんな俺の周りには、いつしか人はいなくなった。


 天霧とかいうやつは、何でもこなしてしまう。

 凡人の俺とは大違いだ。



 ある日、親が深刻な表情で俺の話をしているのを聞いてしまった。何を考えているか分からない、か。全てが苦痛だった。

 こうであって欲しいとイメージを押し付けられ、少し違えば拒絶される。
 次第に両親との関係も崩れ、俺はE組に落ちていた。


 E組の差別は、天霧と同じくらい噂で聞いていた。すれ違うだけで蔑称が飛んでくる。確かに、酷いものだ。だが、俺には関係ない。

 目立ったなければ、他人の目線は飛んでこない。
 それでいい。

 そう思っていた。


「――俺は」

 いつもと変わらない隔離された教室に、一筋の眩い光が現れた。
 遠い存在の筈だった、天霧だ。


「正直に言うと君達の思っていることや、感じていることが理解出来ない。人が思っていることなど、他人が理解できるわけがない」


 真っ直ぐなその声は、プレッシャーで煩い心臓を落ち着かせる。


「よく俺は、完璧だとか御託を並べられるが、実際そうでもない」

 天霧と過ごして行く内に、天霧が少し抜けていることや、苦手な物があると知った。自分で気付いていないだろうが、天霧は考える時、腕を組む癖がある。

 俺も、苦痛を感じていたことを、無意識に天霧に押し付けていた。


「ッ、」

 天霧が苦手だと、勝手に認識していた自分を激しく恨んだ。叶うなら、もう少し早く出会いたかった。


「支えてくれる誰かが居たからこそ、俺は常に前を進めた」


 無表情に見えて、天霧はこんなにも分かりやすい。安全装置を下して、標的に集中する。

 千葉、と天霧が俺の名前を呼ぶ。


「今度は俺が、俺達がお前を支える番だ。安心して撃て」


 焦りも、迷いも全て遮断する。今の俺の隣には、信じられる仲間が居る。

 狙いは定まった。
 残るは、天霧の合図を待つのみ。




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