元生徒副会長はプロの暗殺者と対峙する
「木村、五列左へ。寺坂と吉田はそれぞれ左右三列。敵が隙を見せた。茅野は、安心して二列前に前進」
「は、クソッ!?」
明らかに動揺を含んだ声だ。そうだ、それでいい。初対面の俺達は、お互いの名前など知りもしないからな。考える隙を与えないように、続けてカルマと不破に指示を出す。
この時点で、移動が完了したのは六人。
「磯貝、左に五列」
さて、ここで敵は、名指しの指示で位置と苗字を憶え始めた頃だろう。俺も敵ならそうする。だからこそ、もっと掻き乱してやる。
記憶力が良いのは、俺の第二の刃。ずっと磨き上げてきた武器だ。
「創介。右に一列」
「準備もお忘れなく!!」
俺が口に出した新たな名前で、敵のマヌケな声が聞こえた。苗字だけで指示を出すとは、一言も言っていないからな。
更にアイツの指示で、見る見る敵は焦り出す。
「ヌルフフフ。律さんにお願いしましょう」
「ああ、そうだな。元体操部、女学級委員。座席の隙間から敵を撮影。律、頼んだぞ。千葉に舞台上の様子を教えてやってくれ」
続いて矢田を、左前列。吉田を左前に二列。今頃、千葉は律によって敵の動きを確認しているだろう。ふむ、そうだな。
ここから、趣向を変えてみるとするか。
「寺坂。ずっと気になっていたが、服の値札が付いたままだぞ」
「は、何!?――って、ついてねェじゃねーか!!」
俺の言葉を信じて、本当に確認したのだろう。一瞬、間を置いてふざけんな、と寺坂は叫ぶ。悪いな。これも作戦の一つだ。
大分、敵を撹乱させることが出来た。
窮地に追い詰められた敵は、拳銃を持つ千葉を特定することに専念し始めるころだろう。
「――俺は」
そんな今だからこそ、俺は此処で告げる。
危険を顧みず、俺を信じて行動してくれたクラスメイト。下手すれば重傷を負っていた。深く息を吸って、胸の底から湧き上がって来る思いをぶつける。