元生徒副会長はプロの暗殺者と対峙する



 おじさんぬを倒した俺達は、六階のテラス・ラウンジ前で待機していた。七階からはVIPフロアになる為、裏口の鍵を開ける為に女子が潜入している。

 危険を伴うため、容姿が中性的な潮田も付いて行ったから心配はない。
 寧ろ、彼女達に敵う人間は少ないだろう。


「……どうした、何があった?」

 そんな時、烏間先生の携帯に女子から電話が掛かってきた。少し不安を抱きながら耳を澄ませていると、烏間先生の視線が俺に向く。

 電話を切ると、烏間先生は重々しく口を開いた。


「すまない、天霧君。救援要請だ」
「俺に女装しろと?」

 いや、と言葉を区切って、烏間先生は一枚のジャケットを俺に手渡す。おじさんぬが来ていた上着だ。便乗して、カルマがネックレスを渡してくる。

 これにも見覚えがある。どれだけ、おじさんぬから身包みを剥いでくるんだ。


「天霧君、シャツのボタンを胸元まで開けましょう」

 はぁ、と俺は深く溜息を吐く。
 こうなったら、為りきろう。最も凶悪で、警察さえも手が付けられない―――ヤクザに。


――

 入り口前にいた警備員のチェックは、難無く通れた。ここからが勝負だ。眉間に深く皺寄せ、鋭い目付きで前を見ながら女子達が居る場所へ向かう。

 それにしても、耳障りな音楽だ。眩しいライトも不愉快極まりない。


「ねえ、お兄さん一人?」

 腕に感じた感触に、下を見下す。派手な服を着ている女が、俺の腕に絡み付いていた。すぐ傍から漂う匂いは、明らかに度数の高い酒だ。

 顔も相当赤い。酔っぱらっているのだろう。


「聞いてるー?ねーえ!」

 しつこく絡んだ来る酔っ払いに、俺は顔を近付ける。イリーナ先生に教わった、絡まれた時の対処法。

 実戦は初めてだが、失敗するわけにはいかない。


「なっ、何?ま、まさか――」
「―――喰われたくなかったら、大人しくしてろ」

 耳元で囁き、額を合わせて目の前で微笑む。酔いが回り始めたのか、酔っ払いはその場に崩れ落ちた。介抱してやりたいが、目的の人物達が見つかった。

 申し訳ないが、俺は行く。



「だから、私達ツレがいるから」
「いいじゃん。そんなヤツほっといて俺等とあそぼーよ」

 明らかにガラの悪そうな連中に、女子達は絡まれていた。この格好にさせられたのも理解できる。この場で溜まった鬱憤を、払わせてもらおう。


「悪い、待たせたな」

 声を掛けると、一斉に視線が俺に向く。来たのが俺だと分かると、女子達は俺の背中に隠れた。


「もう、遅いよお兄ちゃん!この人達、しつこくて困ってたの」
「ほう」

 すれ違いざまに、矢田が情報を囁く。しつこく絡んでくる男達に、ヤクザの代紋エンブレムを見せたが、それでも絡んで来るらしい。

 通りで、ヤクザに為りきれと言われる訳だ。


「お兄チャンだァ?邪魔すんなよ」

 ガンを飛ばしながら、俺の胸倉を掴もうとする男。確かに、コレはしつこいな。コイツに時間を割いている時間がもったいない。

 伸ばされた男の腕を掴み、逆に胸元へ引き寄せる。
 そのまま腕を力任せに握り締めれば、ミシッ、と軋む音がした。


「…――邪魔?邪魔なのは一体どっちだ?」

 殺意を込めて、真下で震える男を睨む。嬢に手を出された挙句、ナメた態度を取る不埒者は絞めないとな。

 指で拳銃の形を模り、男の眉間に突き付ける。


「失せろ」

「し、失礼しまひゅ!!」

 何回も尻餅を付きながら、男は去って行く。心なしか気分がスッキリした。乱れた襟元を治していると、矢田に肩を叩かれた。


「かっこよかったよ、インテリヤクザ!」


――


「潮田はどうした。一緒じゃないのか」
「あー、渚は」

 姿が見えない潮田のことを聞くと、他に絡んで来た男の対処を任せているらしい。茅野が呼びに行くと、潮田は変な男を引き連れて戻って来た。

 気を引き留めたいのか、男はその場で踊り出す。


「あ」

 面倒なことをしてくれる。踊っていた男の腕がガラの悪い男に当たり、手に持っていた飲み物が服に零れてしまった。


「こらガキ。いい度胸だ、ちっと来い」
「あ、いや」

 お決まりの台詞を並べ、男は慰謝料をせがむ。
 丁度いい、利用させてもらおう。気絶させる程度に男の腹部を殴り、裏口付近に待機する従業員の前まで運ぶ。


「すいませーん。あの人、急に倒れたみたいで」
「は、はい」

 矢田が従業員を呼ぶと、倒れた男を連れて持ち場から離れて行く。今のうちに俺達は、裏口の鍵を開けて待機していたメンバーと合流し階段を登った。




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