元生徒副会長は島に上陸する
「……ごめんなさい、天霧君。少し、肩借りるね」
ホテルに帰る途中、呼吸を乱れさせた神崎が俺の肩を掴む。水上パーティールームがホテルから少し離れた距離にあるとはいえ、ここまで疲労するのは異常だ。
いや、考えすぎか。
慣れない環境で余計に疲れたのかもしれない。
「わりぃ、天霧。俺も頼むわ」
神崎に負担が掛からないように歩いていると、背中に加わる重み。この状態で、前原が悪ふざけをするとは思えない。
運びやすいように前原の腕を掴んだ瞬間、俺は目を見開く。
体温が、異常に熱い。
「神崎、触れていいか」
「……?、いいよ」
一度許可を貰い、神崎の額に触れる。やはり、神崎も前原と同じように熱があった。この島は、菌でも蔓延しているのではないか。
そうだ。島と言っても、人が訪れる場所だ。診察所くらいはあるだろう。
「もう少しだ」
「ありがと、な」
歩くだけで辛そうな二人を支えながら、俺は歩き続けた。
―――
異常を感じたのは、ホテルに帰ってからも続いた。
神崎や前原と同じような病状の生徒が、何人もいる。診察所の場所をフロントに聞いたが、医者は夜になると帰るらしく、診てもらうことが出来ない。
次にこの島に来る船は、明日の十時。
何も出来ないこの状態に、思わず舌打ちが溢れる。
「ッ、何だこんな時に」
非常事態の中、ポケットに入れていたスマートフォンが振動する。苛立ちながら画面を見ると、非通知で電話が掛かっていた。
大した用件でなければキレるぞ、と怒りを抑えながらスライドする。
『やあ、気分はどうかな?』
電話から聞こえるのは、ノイズが掛かった明らかに偽装された声。言葉を返すなら、最悪だ。これだから商品の広告や勧誘目的の電話は癇に障る。
「申し訳ないが、」
『おっと、切っていいのか。他の生徒が苦しんでいるんだろう。なあ、―――天霧?』
通話を切ろうとしていた指が、一瞬で止まる。電話の向こうの人間は、この状況の原因を知っている。だとしたら、何が目的だ。
俺に掛けて来る意味は、一体―――?
『くっ、くく!だんまりか?まあいい。良いことを教えてやるよ。今お前達は感染したら最後、一週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至るウイルスに蝕まれている』