元生徒副会長は島に上陸する



「夕飯はこの貸し切り船上レストランで、夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう」

 磯貝がウエイターのように、アイツの前に飲み物を置く。俺達が準備をしていた間、どれだけはしゃいだのかアイツの外見は黒く変色していた。

 表情どころか、前後も見分けがつかないレベルだ。


「ヌルフフフ。先生には脱皮があります。黒い皮を脱ぎ捨てれば、ホラ――元通り」
「あ」

 皮を投げ捨てたアイツを見て、不破が月に一度の脱皮ではないのか、と冷静に指摘する。すると、見る見るうちにアイツは真っ青になった。

 自分から戦力を減らすとは、余裕の表れと受け取っていいのか。


―――


「さぁて、殺せんせー。飯の後はいよいよだ」
「会場はこちらですぜ」

 夕食を摂った後、俺達は作戦を遂行する―――水上パーティールームへ移動する。ここには、アイツの逃げ場は無いに等しい。

 三村、岡島を筆頭に、映画鑑賞という名の合図で、それぞれが行動に移す。


「まずは、三村が編集した動画を見て楽しんでもらい、その後テストで勝った六人が触手を破壊し、それを合図に皆で一斉に暗殺を始める」
「上等です。遠慮は無用、ドンと来なさい」

 磯貝が最終確認を行うと、アイツは余裕の態度で了承する。今回、俺から見てもこの作戦は成功する可能性が高い。

 岡島が電気を消すと同時に、映像が再生された。


『まずはご覧頂こう。我々、担任の恥ずべき姿を――』

 三村の見事な編集の後に、成人向けの雑誌を読み耽るアイツの映像が映し出される。それだけではない。女性限定のケーキバイキングの列に、女装して並ぶアイツ。

 よくもまあ、女装以前に人外だとばれなかったものだ。


「こ、これは!?違うんです、見ないで!!」

 否定を繰り返すが、独特な容姿を見間違えるはずが無いだろ。そして、この公開処刑に等しい映像は後一時間も続く。

 いつまでその態度が保つか、見ものだな。



「……死んだ。もう先生、死にました。あんなの知られて、もう生きていけません」


 映像を鑑賞し、一時間経った頃。秘密を暴露され続けたアイツは、完全に意気消沈していた。俺は腕を組みながら、感心する。

 満潮の影響で、床全体に水が広がっているのに、まるで気付かない・・・・・


『さて、秘蔵映像にお付き合いいただいたが―――何か、お気づきでないだろうか?』

 映像越しに三村に言われ、足元を見るアイツ。そこでようやく気付いたのか、立ち上がる俺達を見て冷や汗を流す。

 船に酔い、羞恥心を抱き、水を吸い込んだ触手。


「さあ、本番だ。約束だ、避けんなよ」

 仕掛けは上場。俺たち六人は、触手に標準を合わせ弾丸を放つ。銃声が轟くのと同時に、倒れていく壁。代わりに水圧とBB弾で四方を囲み、檻を作る。

 逃げ道を塞がれ、アイツは仕切りに陸の上を気にしているが、それはダミー。


「――よくぞ、ここまで」

 俺達に称賛を送った刹那―――引き金が引かれた。
 暗闇の中、アイツを殺すのが正しいと理解しているのに、閃光と共に弾け飛んだアイツを見て、俺は焦燥感を抱いた。


―――


 今までにない大きな爆発に、誰もがその時アイツを暗殺したと思った。しかし、油断はできない。烏間先生が言うには、再生能力も備わっているらしい。

 アイツが爆発した水面を、固唾を呑んで警戒する。


「――は?」

 水面に泡が浮かび、一斉に銃を構える。そして―――水面に浮き出て来たものは、アイツの顔が入った気持ち悪い球体だった。


「殺せんせー、それって……?」
「よくぞ聞いてくれました」

 外側の円は、高密度に凝縮されたエネルギーの結晶で出来ている。水や対先生物質を始め、あらゆる攻撃を結晶の壁が跳ね返す。

 これがアイツの奥の手である、完全防御形態らしい。

 だが、ソレは二十四時間ほどで自然崩壊する。
 その間、アイツは全く身動きが取れない。一見、無敵のように思えるがそうでもないようだ。


「やられたな」

 己の欠点までくまなく計算して、対処している。心なしか疲労を感じているのが見て取れる皆の後を、不審に思いながら俺も続いた。



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