元生徒副会長は島に上陸する



「ちょっと、付き合いなさい」


 夏休み一日目。俺は何故か、人で溢れるショッピングモールにイリーナ先生と訪れていた。こうなった経緯は、今になっても俺は理解できていない。

 朝早くから家のドアを叩く音がして、ドアを開けたら先生が居たのは覚えている。
 困惑して、玄関から一歩踏み出した先の記憶が無い。


「あの、俺は何故」
「いいから、来なさい。あ、あそこいいじゃない!」

 強引に腕を引っ張られながら、イリーナ先生が指を差したのは、ショッピングモール内にあるメンズ服売り場だった。誰かにプレゼントでも買うのだろうか。

 だから、暇そうな俺を選んだワケか。


「そうなると、烏間先生か」
「っ、はぁ!?ど、どうしてアイツが出てくるのよ!アンタによ!」

 今度は俺が驚く番だった。何故、わざわざ。意図が掴めない俺は、先生から視線を逸らして頬を掻く。


「アンタが私服着てるとこ、見たことが無いのよ」

 まあ、確かに俺は何かと制服でいることが多い。制服であれば簡単に身分を証明できるし、融通が利く。それに制服は一番、何も考えなくていい。

 無頓着であると自分でも思うが、余り外出しない俺には必要ない。


「金を持ってきていない」
「いいの。私が出すから」

 金が無いのを理由に断ろうとしたら、先生が出すと聞く耳を持たない。それでも断っていたら、至近距離まで顔を近付けられる。

 このままでは、公衆の面前で口付けされる。咄嗟に俯くと、頭に帽子をのせられた。


「ガキは黙って従ってればいいの。そんなに返したいなら、出世して倍にして返しなさい!」
「はぁ」

 何て我儘な大人だ。俯いていた顔を上げると、早速服が何着か顔に飛んでくる。仮にも商品だぞ。丁重に扱え。

 店員も店員だ。
 何も言わないのかと視線を送れば、男の店員は先生に目を奪われていた。


「顔もスタイルも良いから、何着ても似合うわね。こっちもいいし、アレもいいし」

 適当な服で良いと言ったら、鬼の形相で睨まれた。
 結局俺は一日中、イリーナ先生の着せ替え人形にされたのであった。



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