元生徒副会長は夏休みを迎える
「程々にな」
「分かってらぁ」
期末を終えた後、俺達を迎えるのは一学期の終業式。他クラスが体育館へ向かう中、俺達E組は廊下の脇である人物を待っていた。
筆頭に壁に寄りかかっている寺坂は、獲物を待つ不良のようだ。
「おお、やっと来たぜ生徒会長様がよ」
端の方で腕を組んでいると、五英傑を連れた学秀が歩いて来ていた。目の前に通る瞬間、ニヤニヤと笑う寺坂を一見すると、学秀はすぐに視線を逸らして前を向く。
ぐいっ、と寺坂が強い力で肩を掴んで、ようやく学秀の動きが止まる。
「……何か用かな」
掴まれた肩に視線を移した後、その手を強引に振り払い、学秀は険しい面持ちで寺坂を睨む。
「式の準備でE組に構う暇なんて無いけど」
「おーう、待て待て。何か忘れてんじゃねーのか?」
ぴく、と学秀の片眉が動く。恐喝じゃあるまいし、もっと別の言い方は無かったのか。そう思って眺めていたら、急に背中を押された。
紫紺の瞳が、俺を驚いたように、戸惑うように見る。
「―――司、」
突然、廊下の真ん中に放り出された俺は、振り返って押した犯人を睨む。犯人の悪戯小僧は、舌を出して面白いものを見るように、目を細めている。
生徒会長と、元副会長が対峙した。
そんな珍妙な光景に、視線が集まらないわけがなかった。
「おい、あれって」
「あ、天霧君だよ!浅野君も居る。どうしたんだろ?」
後から来た生徒が、野次馬のように騒ぎ始める。流石に不味いと思ったのか、学秀は俺から視線を外し重々しく口を開いた。
「要求は許可する」
勝利が確定した後、律が学秀に送信したメール。それを許可すると、学秀は歩き出す。
だから速くお前達も行け、と通りすがりに呟いて学秀は体育館裏に姿を消した。
「えぇ、夏休みと言っても怠けず、E組のようにならないように―──」
恒例の全校集会での、教頭からの演説。毎回のように行われていた、E組への蔑みに笑いは起きない。その蔑みである対象が、トップであるA組に勝利した。
今まで散々、馬鹿にしていた相手に実質、彼等は敗北したのだ。