元生徒副会長は夏休みを迎える



「さて、皆さん。素晴らしい成績でした。五教科プラス総合点の六つ中、皆さんが取れたトップは六つです」

 触手が一気に六本破壊できる権利に、教室内は騒めく。そんな中、俺は隣の席を盗み見る。いつの間にか、カルマは戻って来ていた。

 ふらりと居なくなっては、現れる。気まぐれな野良猫のようだ。


「なんか用?」

 俺の視線に気づいたのか、机に脚を乗せたカルマが俺を見る。いや、と言葉を返すと気の抜けた返事が飛んできた。

 そんな俺達を置いて、話は進む。


「そう言いたいところですが、六つの内、五つは天霧君。なので、天霧君が破壊する触手は一本です」
「――は?何でだよ!殺せんせー!」

 黄色い生物が放った言葉に、野次が飛ぶ。騒がしい中カルマが身体を起こし、頬杖をついて俺を見る。穴が空きそうな程見つめられて、今度は俺がカルマの方を振り向いた。

 口元には笑みが浮かんでいて、眼は細められている。
 司が言ったんでしょ、と口が動く。


「さあな」

 俺には何のことだかさっぱりだ。


「ヌルフフフ。確かに先生は、総合と五教科のトップに、触手が破壊できる権利を与えると言いました。しかし、それは一人一人を予想してのことだった」

 つまり、アイツは五教科のトップは別々の人間が取ると考えての仮定だった。だから、五つの権利を持つ俺は一つだけ。

 そんなの屁理屈だと苦言が飛び交う中、視線が重なるアイツから目を伏せる。


「おい、待てよタコ。五教科のトップは二人じゃねーぞ」


 そんな時、寺坂が教卓の前へ行き言い放つ。

 五教科は、国、英、社、理、数で間違いないはずだ。そう黄色い生物は頭に疑問符を浮かべ、馬鹿にするように寺坂は不敵な笑みを浮かべる。


「アホ抜かせ。五教科っつったら、国、英、社、理―――家だろ」
 
 その言葉と共に寺坂、吉田、村松、狭間の四人がが教卓の上に家庭科の答案用紙を並べる。勿論点数は四枚とも100点。


「ちょ、家庭科のテストなんてついででしょ!こんなのだけ何本気で100点取ってるんです君達は!」

 誰もどの五教科とは言ってねェよな、と言われアイツは慌てふためく。

 せっかく、破壊する触手を一本にしたのに、結局六本になってしまったな。涙目になっているアイツの必死さが伝わって来て、俺は喉の奥で押し殺すように笑った。



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