元生徒副会長は夏休みを迎える
学秀side
『3-A組の浅野 学秀君。理事長がお呼びです。至急、理事長室へ来て下さい』
答案の返却が行われる中、校内に響いた放送に無言で席を立つ。わざわざ、僕を呼び出す理由は一つしかない。
E組との賭けのことだろう。
「個人総合二位、おめでとう。……と、言いたいところだが、何やらE組と賭けをしていたそうじゃないか」
案の定、そのことだった。
試験前に蓮達が持ち帰って来た、E組との賭け。勝手に判断したことに謝ってきたが、彼等が突きつけた条件は、僕にとって好都合のものだった。
面倒なことをしてくれたと思う反面、感謝した。
「全校中にまで、賭けの話が広まってしまっている。E組の要求は、そう簡単に断れないよ」
そんなこと、分かっている。広まってしまった噂は、簡単には消えない。
「――どうする?学校が庇ってあげようか?」
ギッ、と強く唇を噛む。最近の父は、E組に関して重大な何かを隠している。この賭けを利用して、弱みを握ろうと思った。
あわよくば、首輪を付けて手綱を引こうとも考えた。
「結構です」
「……よくも言えたものだね」
眉根を顰めて、僕は即答する。そんな僕に近付き、父は耳打ちする。同い歳との賭けにも勝てない未熟者。
途端、幾つもの青筋が浮かぶのが自分でも分かった。
「ああ、そうだ。天霧君が今回も一位だったよ」
その名前を聞いて、少し頭が冷える。
一年生の頃から僕の名は、司の二番目の列に並ぶ。中学三年の残り少ない期間、アイツが別のクラスになったのもあって、僕自身の感情を初めてメッセージで送った。
深夜に送ったのもあって、既読はつかない。
そして、朝―――通知欄に一件未読があった。初期設定のままのアイコンをタップする。
『今回は負けない』
僕がアイツに送った短い文面。その真下には、昨日無かった返信が届いていた。
『ああ』
アイツらしい飾り気のない、一言。今回は、今回こそは、敗北を味合わせてやろうと思った。だからこそ、僕は悔しかった。
僕は、アイツに勝てない。