元生徒副会長は思い出す




「すげーー!まるで本物じゃねーか!」

 現に今、教室に戻った吉田が黄色い生物とバイクの話で盛り上がっている。プールの廃材で作ったらしいが、かなりクオリティが高い。

 エンジンを搭載すれば、すぐにでも走り出せそうだ。


「……何してんだよ、吉田」
「あ、寺坂」

 仏頂面を下げた寺坂が教室に入って来ると、吉田は焦ったように笑う。趣味があるのは良いことだ。アイツがバイクの知識を披露すると、吉田がツッコむ。

 それがツボに入ったのか、木村が腹を抱えて笑っている。


「……ッチ」

 だが、寺坂にとって気に入らなかったらしい。
 ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、手作りのバイクを蹴り飛ばす。廃材で作っただけあって、簡単な衝撃で壊れる。

 泣き出した黄色い生物を見て、教室内に居た生徒は寺坂を責め立てる。


「うるせえな。テメェら虫かよ。そうだ、駆除してやるよ」

 何をするのかと思えば、寺坂は己の机から殺虫剤を取り出し地面に叩きつけた。反動で中身が噴き出し、教室中に殺虫剤がまき散らばる。

 中には咳込む者や、悲鳴を上げる者が居る。
 一歩間違えれば、この何気ない行為が危険を及ぼす。


「待て寺坂、」
「―――ッ!!」

 パシン、と乾いた音がした。

 寺坂の肩に置いた手が、力強く振り払われる。


「触んじゃねえ。そもそも、テメェは気持ちわりーんだよ。A組から突然来やがって。記憶力がいい?化け物かよ」

 蓋をしたはずの記憶から、悲鳴を上げながら泥が溢れ出す。頭が割れるように痛い。真っ直ぐ、寺坂を見ようにも手が震えて難しい。

 自分の身体が、冷えて行くのが分かった。


「それは違うんじゃない」

 隣の席のサボり魔が、壁に寄りかかりながら寺坂を見下すように笑っていた。だが、その目は笑っていない。気遣うように俺を見る潮田に、大丈夫。

 そう伝えたいのに、震える手を隠すので精一杯だった。


「何だカルマ。テメェも俺に喧嘩売ってんの―――」
「ダメだってば」

 言い終える前に、カルマが寺坂の口元押さえる。冷や汗を流す寺坂を見て、カルマは柔らかく笑う。宥めるように、言い聞かせるよに。


「喧嘩するなら、口より先に手ェださなきゃ」
「くだらねえ」

 捕まれていたカルマの腕を振り払い、悪態を吐きながら寺坂は教室から立ち去った。


 久し振りに聞いたな。

 らしくもない。こんなことで、戸惑うとは。



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