元生徒副会長は刃を研ぐ
「お前の目も曇ったなァ烏間。よりにもよって、そんなチビを選ぶとは」
この時ばかりは、鷹岡の言っていることは正しかった。
潮田の体格は勿論、筋力は男の平均値を下回っている。クラス全員も、潮田を選んだ烏間先生を困惑した表情で見た。
だが、烏間先生に指名された潮田は、最初は戸惑っていたもののナイフを受け取った。
「さぁ、来い」
素手の鷹岡と、ナイフを持った潮田が対峙する。自信あり気な鷹岡に対して、潮田の表情は暗い。対照的な二人を前にして、俺は烏間先生に尋ねる。
「何故、潮田を?」
俺じゃなくとも、ナイフの扱いが上手い磯貝や前原でも良かったはずだ。現に今、潮田は笑みを浮かべて普通に歩くように鷹岡と距離を詰める。
あたかも、自然な動作で鷹岡という障害物に当たると牙を放つ。
「ぐっ、ぎ!?」
痺れるような感覚が背筋を駆け抜ける。
完全に油断していた鷹岡は、数センチ先まで届いた刃物に遅れて反応する。
仰け反ることしか出来なかった鷹岡は、体制を後ろに崩す。重心が傾いた状況を利用し、潮田は服を引っ張り押し倒し―――仕留めた。
「説明は必要か」
背後に回り、鷹岡の首元にナイフを添える潮田の姿。潮田は、難無く鷹岡との勝負に勝利した。
「いえ」
見ていれば説明など不要だ。殺意を隠し近付き、刃物を扱うことに物怖じしない度胸。己に足りない物を、己自身で補うセンス。
間違いない。潮田には、誰よりも暗殺者としての才能が備わっている。
「そこまで!勝負ありですよね、烏間先生?」
黄色い生物は潮田の手からナイフを奪い取ると、頑丈な歯で噛み砕く。全く、コイツの生体が気になる。鋼を軽々と砕く歯だぞ。普通じゃ有り得ない。