元生徒副会長は刃を研ぐ




「よーし、皆集まったな!では、今日から新しい体育を始めよう!」


 全員でグラウンドに座りながら、鷹岡に視線を送る。一定の人数は、鷹岡の表面に惹かれているが、この男を見ているとどうも吐き気がする。

 何より、この男がやって来たことにより、楽しみも減った。


「そうだそうだ。訓練内容の一新に従って、E組の時間割も変更になった。これを皆に回してくれ」
「……時間割?」

 普通なら有り得ない時間割変更に疑問を抱きながら、配布された時間割表を見る。ほう、なるほど。ようやく、この男に対する嫌悪感の正体が分かった。

 四限から十限目と深夜九時まで組まれた、訓練の文字。


「ちょ、待ってくれよ!無理だぜこんなの!できるわけねーよこんなの!」

 抗議の声を前原が上げる。その内容は、最もだった。一般人の、まして子供にやらせる量の域を超えている。
 暗殺訓練を行っている時点で、言える義理ではないが、これは異常だ。


「できないじゃない。やるんだよ」

 鷹岡の表情が変わるのを見て、立ち上がろうとした瞬間―――鷹岡の膝蹴りが前原の腹部に直撃する。唇を強く噛み締める俺を嘲笑うように、狂気染みた笑みを浮かべながら鷹岡は前原を投げ捨てた。


「言ったろ?俺たちは家族で俺は父親だ。世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」



「さあ!手始めにスクワット100回を3セットだ!」

 小刻みに鷹岡が手を叩く。逆らうと振るわれる暴力の恐怖を目の当たりにした皆は、戸惑いの色を見せながら指示に従う。


「抜けたい奴は抜けてもいいぞ!そん時は、俺の権限で新しい生徒を補充する」
 
 それはいい。このまま全員で抜ければ、授業続行は不可能。こいつが補充する前に、あの黄色い物体が動くだろう。

 そのことを視野に入れない軽はずみな発言は、足元をすくわれるぞ。


「けどな、俺はそういうことしたくないんだ。お前らは大事な家族なんだから。父親として一人でも欠けて欲しくない!」

 愛情という名の飴を与え、恐怖という鞭を振るう。それを繰り返すことによって、間違っている認識を疲弊した人間に、それが正しいと刷り込ませる。

 なるほど。父親と称した、支配か。
 

「な、お前は父ちゃんに着いて来てくれるよな?」

 神崎の頭に手を置き、鷹岡は語りかける。標的にされた神崎は、恐怖によるものか脚が震えてしまっている。


「……は、はい。わ、私―――」
 
 肯定では無く、否定を口にしようとするのは分かっている。
 思うが、神崎は変な輩に絡まれるな。そんなことを考えながら、蹲る前原の傍から離れて神崎の傍に移動する。


「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」

 にこりと、偽りの無い笑みを浮かべる神崎。鷹岡は、口角を上げると大きく腕を振り上げる。途端、鈍器で殴られたような鈍い音が周囲に響く。
 
 重いな。これが軍人の平手打ちか。呑気に熱を持つ腕を眺め、俺は神崎の前に立つ。


「天霧!!」
「……何だ?文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃん得意だぞ!!」

 洗脳を俺に邪魔され、鷹岡は御怒りらしい。それでいい。もっと俺に意識を向けろ。攻撃の躱し方なら、見て学んだおぼえた


「俺は反抗期中なんだ。暇なんだろ、相手してくれよ」


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