元生徒副会長は刃を研ぐ
「視線を切らすな!!次に標的がどう動くか予測しろ!!全員が予測すれば、それだけ奴の逃げ道を塞ぐことになる!!」
太陽が照り付ける中、腕で額の汗を拭う。
途中から参加した俺は、素振りからの開始だったが漸く参加できることになった。
俺の順番は、最後らしい。
「次ッ!」
烏間先生の号令で、前原と磯貝が駆け出す。どちらかが仕掛ければ、片方が次の一手に回る。二人の合わせ技は見事なものだ。
息が合わなければ、難しいだろう。
「っふ」
「いい蹴りだ」
ほう、あの体勢から蹴り上げるか。岡野の身体の柔らかさは、目を見張るものがある。そして、寺坂三人組と潮田が終わり、烏間先生が俺を見る。
「次は君の番だ」
構える先生を前に、ナイフの感触を確かめる。単に拳を当てるだけなら容易だ。だが、この訓練ではナイフを当てなければならない。
加えて、相手は烏間先生。
「へぇ、司も参加するんだ」
「一発お見舞いしてやれ天霧!」
何やら外野が騒がしい。そんなに見ていて楽しいものではないだろうに。
しかしまあ、期待に応えないわけにもいかないだろう。
ナイフを利き手に持ち替え、即座に距離を詰める。
試しに、ナイフを握り締めた腕を振り上げる。だが、それよりも前に腕を振り払われ標的を捉えられない。
だろうな。こんな簡単な攻撃は当たらない。
「来い」
体制を整えると、俺は真っ直ぐ烏間先生を見据える。
相手も俺と同じように、出方を窺っている。しかし──表情は余裕そうだ。その顔を崩したくなった俺は、体制を低くする。
──―瞬間。
烏間先生の顎に、俺の靴先が掠る。此れには驚いたのか、僅かに先生の眉が動く。が、それも一瞬。防衛省の人間であるだけに、判断が早い。
脚を掴まれ、動けないよう固定される。
「――!」
つい心が躍り、口元に笑みが浮かんでしまう。
脚を掴まれている状況を利用し、そのまま腹筋で上体を起こしてナイフを振り上げる。これも予測できていたのか、腕を掴まれた。
まだだ。まだ足りない。
「……なっ、!」
自由な片足で烏間先生の頭を挟み込み、その勢いで投げ飛ばそうとする。しかし、先生は微動だにしない。
どんだけ体重があるんだ。
まあ、目標は達成できた。初めてにしては上出来だろう。