元生徒副会長は転校生と邂逅する
雨音にも負けないくらい、教室内はある情報で賑わっていた。
律に続き新たな転校生が来ると。十中八九、只の転校生ではないのは確かだろう。
「そーいや、律は何か聞いてないの?」
律の前の席である原が、クラスを代弁して転校生について聞く。
「はい、少しだけ。初期命令では──」
成る程、やはり只の転校生ではないらしい。
本来、律と転校生は同時期にクラス入りし、律が遠距離。転校生が近距離と、連携して攻撃を行う予定だったそうだ。
だが、それは二つの理由で白紙になった。
一つは、転校生の調整に予定より時間が掛かったから。残る理由、それは律が転校生より圧倒的に劣っていた為。
皮肉めいていて虫唾が走る。
「……!」
その時、大きな音を立て突如として教室のドアが開かれた。その音に肩を震わせ、律の方を向いていた生徒が反射的にドアの方へと振り向く。教室に入って来たのは――白装束に白覆面で顔を隠した男。
最初からドアを見据えていた俺は、その歪さに目を細めて警戒を強める。
「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者だ」
突然姿を現し、転校生の保護者だと名乗る男は、シロとでも呼んでくれと簡潔に自己紹介を済ませる。
どうもこの男は不気味だ。
覆面で表情が窺えないが、隙間から覗く瞳が妙に禍々しい。
「では紹介します。おーい、イトナ!入っておいで!」
男が転校生を呼ぶ。その呼び掛けで教室内は緊張感に包まれ、ドアに注目が集まる。瞬間、背後から感じた悪寒。隣の席に視線を逸らせば、後方の壁が破壊される音と共に一人の男が座っていた。
「俺は勝った。この教室の壁よりも強いことが証明された。それだけでいい。……それだけでいい」
頬すれすれに飛んで来た木の破片を掴みながら、内心思う。
いや、知らん。普通にドアから入ってこれないのか。
「堀部イトナだ。あぁそれと、私も少々過保護でね。暫くの間、彼のことを見守らせてもらいますよ」
暫く居座ると言った男が気掛かりだったが、空席だった隣を観察する。
瞳孔の開ききった目に、何やらブツブツと呟く姿は正に異様。
一番気になったのが、雨だ。
堀部は外から壁を突き破って入って来た。外は雨が降っている。では、堀部は傘も持っていないのに何故一滴たりとも濡れていない?
「……お前」
そんなことを考えていると堀部と目が合った。流石に不躾に見過ぎたか。堀部は立ち上がると、俺の正面に立つ。
「お前は、多分このクラスで一番強い」
いきなり何だ。それよりも、さっきから何を強さにこだわっている。充血した瞳から目を逸らさないでいると、堀部がぐっと顔を近づけてきた。
同時に、俺の頭部へ伸ばされる手。
「けど安心しろ。俺より弱いから俺はお前を殺さない」
ぐしゃっと俺の頭部を一撫でし、堀部は教壇に立っている黄色い生物の元へ向かっていく。
「俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、あんただけだ」
「強い弱いとは喧嘩のことですか?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」
羊羹を貪る黄色い生物に向かって、堀部は立てるさと断言する。
「だって俺達、血を分けた兄弟なんだから」
何かあるとは思っていたが、兄弟か。
まあ、実の兄弟でなからろうがそうであろうがどうでもいい。最近の転校生は、いきなり勝負を仕掛けるのが流行りなのか。この二人の場合は、特別なケースなのだろうが。
溜息を吐いて俺は隣を見る。堀部の机の上には、吐き気がする程大量の菓子が山盛りになっていた。
「そんなに見てもやらないぞ」
「要らん」
俺は甘いものが嫌いだ。