生徒副会長は堕ちる
「…今まで、彼らはこのような所を通っていたのか」
俺が想像していたよりも、扱いが酷いE組の待遇にグッと眉間に皺が寄る。
彼らが学ぶ旧校舎への道のりは、それはそれは酷い有り様だった。整備されず、急斜面な道中に転がる大量の石。草々は好き放題に茂り、足場はとてつもなく悪い。
本校舎から一㎞も離れた山の上にあるのは知っていたが、これは無いだろう。
そもそも、何故俺がここに居るのか。
それは、明日からE組行きになったとはいえ、E組の先生方に挨拶も何もないのは失礼だろうと思い至ったのが理由だ。
「――とは言え」
俺がやることは山積みのようだ。毎朝、このような場所を通って旧校舎へ向かうのは、運動が苦手な者には危険過ぎる。
もし、足場を崩してでもしたら頭から地面に真っ逆さま。
「着いたか」
そのようなことを考えていれば、俺は旧校舎へ辿り着いたらしい。旧校舎全体を一見して、一言で言い表すならば――ボロい。廊下を歩けば、ギシギシと床が軋む音が耳に届いて来る。
今までの間、良く床が抜け落ちていないことに軽く感心さえもする。
「……何だこれは?」
ふと視線を落とすと、廊下の端に小さな丸い球体が転がっているのに気付いた。腰を下ろして拾い上げて見ると、それは遊戯銃に用いられるBB弾であった。生徒の誰かが、銃器を用いた戦闘を模す遊びが好きなのだろう。
落し物は持ち主の元へ返さなければな、と立ち上がろうとした―――その時。
廊下を誰かが歩いて来る音がした。古い床が重く軋み、この音からして恐らくやってくるのは成人した男。
――暫くして、足音が消える。
「君は誰だ?」
誰だと問われて、俺はゆっくり振り向く。そこには皺一つ無いスーツを身に纏い、多少驚いた顔をした男が、真後ろから俺を見下ろしていた。
腰を下ろしたままの体制をやめ、身体を男の方に向ける。俺も身長は大きい部類ではあったが、目の前の男は更に長身であった。男は、俺が着ているのが椚ヶ丘中学校の制服だと認識すると警戒するのを辞め、もう一度聞いて来る。
「本校舎の生徒か。何故ここに?」
「明日から、E組に転籍となりました。元3年A組、天霧司です」