元生徒副会長は転校生と邂逅する
「お、見てみ渚君。司」
昼食中、ホットドッグを片手に持ったカルマに外を見るよう促され、弁当を食べていた箸を置く。大方、食事を摂っている烏間先生にイリーナ先生が暗殺を仕掛けているのだろう。
「ビッチ先生だ!」
やはりな。予測できた行動に、俺は外を見ること無く箸を進める。口に運んだ途端、広がる辛さ。コンビニで出た新作である激辛麻婆丼は、舌を程よく刺激し、中々に美味しい。
困ったな。暫くコンビニに通いそうだ。
「ね、司。賭けようよ」
「何をだ」
いきなり賭けを持ちだしたカルマへ、箸を止めることなく聞き返す。待ってましたと言わんばかりにカルマは答えた。
烏間先生とイリーナ先生のどちらが勝つか――と。
「俺が勝ったら、烏間先生をパパって呼ぶのどう?」
「ちょ、カルマ君……!」
何故、烏間先生をそのような呼称で呼ぶんだ。あくまでも他人だぞ。
「おいおい、こっちでも何か始まったぞ」
「雰囲気似てるから合うかも!」
しまった。あの二人の勝敗が気になるE組の生徒の大半が教室に残って居る。カルマめ。わざとこの場で発言したな。倉橋に至ってはどういう意味だ。
これでは、拒否するにもできない。
深く溜息を吐いて、俺は賭けに乗る。
「で、どっち?」
「烏間先生だ」
それじゃあ、俺の勝ちだ――と宣告され、窓際に集まる輪に加わる。
「……成る程」
烏間先生の足元に伸びるワイヤー。予想だにしていない出来事に烏間先生は体勢を崩し、すかさず起き上がる前にイリーナ先生がマウントを取る。
残念なことに、振り下ろしたナイフは烏間先生が受け止めた。
力勝負ではどう足掻いても勝てない。そこでイリーナ先生が懇願でもしたのか、呆れたように烏間先生は手を離しナイフが当たる。
「忘れないでね」
除外していた起こるはずの無い1パーセントの可能性が起こった。
何より、イリーナ先生の残留が決定した。
「仕方が無い。賭けは、賭けだ」