元生徒副会長は転校生と邂逅する



 喫茶店にて標的ターゲット二人が席に座るのを確認。
 作戦、遂行開始――と、通話越しに合図を送る。


「あんのー……そこ通ってもいいですかいのう」
「はぁ?」

 大声で駄弁る二人に、年老いた老夫婦が近付いて行く。奥の席に座りたいから、足を伸ばした瀬尾に引っこめろと。瀬尾は厭味ったらしく文句を言いながら足をどかす。

 障害物が消えた老夫婦は、会釈して奥の席に座る。


「すげーな。あれ、渚と茅野かよ」

 さて、常識の欠片も無い標的は、老夫婦の違和感に気付かなかった。老けた顔に対して、皺一つない手足。まあ、それだけ菅谷が手を掛けた変装マスクの完成度が高かったのだが。

 矢田と倉橋が家主を押さえている間に、次の行動に移る。


「奥田さん、頼んでおいた例の弾は?」
「は、はい。急いで調合してきました。BB弾の形にそろえるのに苦労したけど」

 上々だ。奥田が調合した弾薬を、千葉と速水が銃に装填する。準備は完了した。フードを被った岡野、磯貝、前原が作戦遂行場所へ移動する。

 見下していた者による下剋上。いつでも立場は変わるものだ。


―――


「あなた、この近所にトイレはあるかしら。100m先のコンビニにはあったけど」

 杉野が、潮田と茅野に決行の合図を送る。ばれないように潮田へアイコンタクトを取った茅野は、理由を作って静かに席を立つ。


「おいおい。ここで借りれば良いじゃろが。席は外でもこの店の客なんじゃから」
「そうでした。それでは借りてきますよっと」

 見事な老人の演技だ。老婆に扮した茅野が店の中に入ると、声を潜めて誹謗を吐く二人。


「お、しまっ……」

 流れるように、サラダが入った皿をテーブルから潮田が落とす。銀製でできた食器が落下した音は悪くも目立ち、驚いた標的は振り返る。
 そして、隙を見せた瞬間――千葉と速水が狙撃。
 狙い通り、弾薬は標的の頼んだ飲み物に命中し、気付かない標的はそれに口を付けた。


「……ぐっ、急に腹がッ!お前ここの珈琲大丈夫か?」
「ば、バカなこと言わないでよ!私の行きつけに!」

 急に腹痛を訴える二人。無理もない。先程の弾薬には、奥田が調合したマグネシウムを主成分として調合した恐ろしいブツが含まれている。
 市販薬の数倍の刺激が、今頃二人の大腸を襲っていることだろう。

「お、俺トイレ!」
「あ、ズルい。私が先!」

 競り合うように標的はトイレに向かう――が、トイレは既に使用されていた。そこで、悪態をつきながら標的は思い出す。老婆がトイレに向かったことに。そして、老婆が口にしていた言葉。
 100m先のコンビニにはトイレがあったと。


「なに一緒に来てんのよ!あんた男なんだからそこらでしなさいよ!」
「出来るか!」


 そこからはもう早かった。標的は狙い通りに第二のポイントに向かう。腹部を押さえながら走る二人の前に、横切る一枚の葉っぱ。

 異変に気づいた時には、もう遅い。


「――ヒッ!!」

 顔を上に向けた途端、大量の枝が頭上から降って来た。雨で潤った枝で全身はずぶ濡れになり、余計に腹を冷やす。

 それでもなお、標的はコンビニを目指して走り出した。
 頃合いだな。俺も行動に移すか。



 標的が到着するまで、茅野が言っていたコンビニの中で夜飯に頭を悩ませる。最近のコンビニの御飯はすごい。味も悪くないし、自炊しなくていい手軽さがある。
 迷うな。弁当もいいが、麺類も捨てがたい。

「っはぁ、はぁ……!私が先!」
「俺が先だ!!」

 結局、両方を手にして会計を済ませていると、言い争いながら標的がドアから飛び込んで来た。


「……瀬尾?」
「あ、天霧!?」


 相手方も驚いているようだが、俺もあたかも驚いているような表情を装って、止めを刺す。

「どうした、そんなに濡れて。二人で仲良く水遊びでもして来たのか」
「ッ―――!!」

 見る見るうちに、標的の顔は羞恥に染まって赤くなる。
 俺に指摘されて現状を思い出したのだろう。汚れたままの姿で、平静を乱してトイレを目指す。

 二人にとって、これ以上ない屈辱だったはずだ。



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