元生徒副会長は転校生と邂逅する



「あ、天霧君だ」

「ホントだ。おはーー」
「おはよう」


 改良を加えた翌日の朝、下駄箱で潮田と杉野に出くわした。挨拶を交わし、外履きから上履きに履き変えていると、固定砲台に対する落胆を隠せないと杉野の譫言が耳に入ってくる。

 そんな杉野に、心配ないとだけ言っておこう。


「どういう意味だソレ?」
「まあ、開けて見ろ」

 俺に教室のドアを開けるように促され、杉野は困惑したままドアに手を掛ける。最初に目に入ったのは、明らかに体積が増えた箱。

 ―――そして。


「おはようございます!渚さん、杉野さん!天霧さん!」


 同じ椚ヶ丘中学校の制服を身に纏い、全身が液晶画面に表示された箱入り娘の姿。


「これ、一応固定砲台だよな?」
「たった一晩でえらくキュートになっちゃって……」

 衝撃を隠せない生徒達に、黄色い生物が昨晩固定砲台に手を加えたことを説明する。反応は様々だった。興味を示したり、警戒したりと。

 その中で、一番反抗的な態度を取るのは寺坂だった。


「何騙されてんだよ、お前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろ」
「案ずるな寺坂。俺も手を加えた」
「は?」


 昨日、アイツが俺を放課後呼び止めたのは、俺が固定砲台の中身に興味を持っていたのに気付いていたかららしい。結果、箱入り娘の改造は有意義な時間を過ごせた。
 政府公認の機械なだけあって、複雑なコードが組み込まれていて解析するのが楽しかった。

「それでも、機械は機械。どーせ、また空気読まずに射撃すんだろポンコツ」
「……おっしゃる気持ち、分かります寺坂さん。昨日までの私はそうでした」

 ポンコツと言われても返す言葉が無い、と両手で顔を覆い涙を流す箱入り娘。それを見た片岡と原が、女子を泣かせたと囃し立て、寺坂は狼狽える。


「でも、」


 その流れを断ち切るように、箱入り娘は涙を拭い続けた。

「安心してください。殺せんせーに諭されて、私は協調の大切さを学習しました」

 これまでのことを反省し、箱入り娘はE組の合意を得るまでは単独での暗殺は控える方針を決めたらしい。ただ、箱入り娘の殺意には一切手を付けていない。

 合意が得られたその時、心強い仲間になるのには間違いない。



 周囲を囲むようにクラスメイトに観戦され、白黒の盤上で駒を動かす。チェスに取って大事なのは相手の先を読むこと。盤上に残る相手の駒は、キングとナイト。

 キングを護る駒はもういない。裸の王様同然だ。
 クイーンをキングの手前に動かす。


「終わりだ。――律」
「もう一回お願いします!」


 またか。これで六回はやり続けているぞ。


「……ここだけ次元が違げぇ」

 称賛を受けながら、盤上の駒を定位置に並べ直す。その作業を続けながら、横目で沸きあいあいと生徒同士で会話する律を見る。改造の御蔭で親しみやすくなった律は、あっと言う間にクラスに溶け込んでいた。
 人気が取られかねないと、黄色い生物が焦る様は滑稽で面白かった。

 ああ、律とは――箱入り娘のことだ。

 自律思考固定砲台など、長ったらしくて仕方が無い。そこで考えた結果、一文字とって律と呼ぶことになった。安直ではあるが、良い名前だとは思う。


「チェックメイト」
「ッもう一回やりましょう!」


 これで本当に最後だぞ。もう一度と挑まれても、俺はやらないからな。



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