元生徒副会長は転校生と邂逅する

 

 いつもならば、必要最小限にしか触れないスマートフォンの電源を付ける。商品の広告や勧誘など、不特定多数に送信される電子メールの受信を拒否しているのに、昨日通知が届いていた。
 有り得るのは、連絡先を交換している学秀か烏間先生の二択だ。
 前者はまあ、有り得ないな。あれから音沙汰が一つも無い。


 で、烏間先生から届いたメールだが――。

『明日から転校生が一人加わる。多少外見で驚くだろうが、あまり騒がず接してほしい』


「……それが、コレ・・か」

 目の前に聳え立つ巨大な箱。決して、生身の人間とは言えないモノがそこにはあった。



「ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ」
「よろしくお願いします」


 烏間先生から紹介を受け、液晶画面の向こうで無機質に挨拶するAI。何ともまあ、烏間先生も大変だな。心労も絶えないだろう。
 イロモノの案件を抱え、上層部からの指示を全うする。
 俺には真似出来ない。


「いいでしょう、自律思考固定砲台さん。貴女をE組に歓迎します!」


 まあ、そんなこんなで授業は普通に開始された。AIと言うだけあって、聞いたことをそのままデータに演算処理しているのだろうか。一度、分解して中身を全て拝見したいのだが問題になるか。
 にしても、銃口は何処にある。箱の中に収納しているのか。固定砲台と名付けるくらいだから、そうだとは思うが。

「――この登場人物の相関図を纏めると」

 板書を書く為に黄色い生物が背中を向けた、その時――。


「ほう」
「かっけぇ!!」


 派手な機械音に合わせて、箱の中に搭載された拳銃が左右に展開された。通りで箱がデカい訳だ。アレだけの量を見れば納得できる。

「ショットガン四門に、機関銃二門。濃密な弾幕ですがここの生徒は当たり前にやってますよ」

 政府が用意した兵器―――自律思考固定砲台による射撃を、全て正確に避ける黄色い生物。

「それと、授業中の発砲は禁止ですよ」
「……気を付けます。続いて攻撃に移ります」

 禁止と言われ、理解したと答えたのに、直ぐにそれを破るとは。このAI、不具合が起きているぞ。困惑している俺の隣で、固定砲台は呟く。
 弾道再計算、射角修正、自己進化フェイズ5-28-02に移行――。


「……こりませんねぇ」


 相手を完全にナメている、黄と緑の縞模様の顔。油断していていいのか。隣の席である俺だけに聞こえた、再演算処理。先程と同じ射撃、軌道、弾数に見えるが――次の瞬間。

「―――ッ!?」

 チョークで弾を弾こうとした黄色い生物の指先が派手に吹き飛んだ。考えたな。同じ動きのように見えて、見えないよう一発だけ加えた隠し弾ブラインドか。


「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました」

 唖然とした表情で、破壊された触手を見つめる黄色い生物。

「次の射撃で殺せる確率0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率0.003%未満。卒業までに殺せる確率90%以上」

 暗殺対象ダーゲットの防御パターンを学習し、武装及びプログラムに改良を繰り返し確実に仕留める。
 プログラムされた笑顔で微笑み、固定砲台は次の射撃モーションに入った。


「よろしくお願いします殺せんせー。続けて攻撃に移ります」


 一時間目、二時間目――とそれは続いた。自己進化し続けると言う点は実に素晴らしい。が、俺達の不快感は溜まり始めていた。
 固定砲台が射撃する度に床に散らばる弾を掃除。改良されていくごとに、俺達にまで被弾するようになった弾。何より、固定砲台の前の座席に座っている原と隣の席である俺にとって邪魔でしかない。


「続けて攻撃に――」
「おい」


 射撃を開始しようとした固定砲台の前に立ち、電源しんぞうにナイフを突き立てる。流石に我慢の限界だった。

「……直ちに退いて下さい。攻撃が開始できません」
「知ったことか」

 弾を発射する度に発生する発砲音。間近で聞いている俺達にとって、不愉快極まりない雑音でしかない。ましてや、授業を妨害するのなら論外。

 俺達生徒が固定砲台へ妨害するのは、禁止されてはいない。
 故に、これ以上続けるようなら―――


解体バラすぞ」



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