元生徒副会長は輪に加わる



 風呂から上がると脱衣所の籠を見る。黄色い生物が言っていた通り、着替えの上に眼鏡はあった。真っ先に手に取って、装着すれば視界はいつも通り。身体を拭い、旅館が用意してくれた浴衣に袖を通す。
 和装は良いな。どうも落ち着く。


「―――か」
「――――なー」

 髪を拭きながら大部屋に向かっていると、何やら盛り上がったような話し声が聞こえてくる。消灯時間までの時間潰しか。

 特にすることもない。俺も混ざるか。

「お、司じゃん。こっち来なよ」
「ああ」

 襖を開けると、一斉に視線がこちらに向いた。何だ、男子全員で集まっていたのか。

「今さぁ、クラスで気になる娘いるか男子の間で聞いてたんだ」
「皆言ってんだ、逃げらんねーぞ」

 獲物を決して逃がさぬ蛇のように、前原に首に腕を回される。こういった類を好むのは女子ではないのか。だが、そうだな。これといった人物が思い浮かばない。

 ただ、一つだけ言える。


「お前らは好きだ」


 言葉にするつもりはなかった筈のにな、と自然と笑みがこぼれる。大分、俺は絆されているのかもしれない。


「イケメンは言うことが違うなッ――と!」
「な、やめろ……!」

 身動きが取れないよう前原に固定され、もう片方の手で頭を掻き回される。水分が飛んで丁度いいが、何かこう―――照れ臭い。周囲に助けを求めても、誰も救出してはくれない。
 逆に、もっとやれと野次を飛ばし見ているだけだ。

「程々にな。それで、この投票結果は男子の秘密な。知られたくない奴が大半だろーし、女子や先生に……」

 確認するように部屋を見渡していた磯貝が、固まって窓を見る。つられて窓側を見ると、そこには窓ガラスに張り付き、手元のメモ帳に何かを書きこむ黄色い生物が居た。
 黄色い生物は気付かれたことに気付くと、素早く立ち去る。

「待てやこのタコ!!生徒のプライバシーを侵しやがって!!」
「殺せ!!」

 ナイフを持ち殺気立った男共が部屋を飛び出して行く。後で知ったが、女子側でも同じことが起きたらしく、結局いつもの暗殺になったらしい。



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