元生徒副会長は輪に加わる
俺達の班員が旅館に帰った頃、既に他の班員は風呂を済ませ旅館内を好きに過ごしているらしい。俺達も風呂にするかと杉野が提案したが、俺は遠慮する。
一緒に入浴するのが嫌なわけではない。額の傷を俺が見せたくないだけだ。
「ふむ。それじゃあ、先生と一緒に入りましょう」
「は?」
それが、どうしてこうなった。
傷に触れないよう髪を洗い流した後、ブクブク泡立つ檜の浴槽に身を沈める。地球外生命体と入浴していることさえ気にしなければ、丁度良い湯加減の風呂は心身ともに疲れを拭ってくれた。
「にゅや!?どうしてそんなに離れるんですか。先生ちょっと傷つきました」
わざと離れた場所に居たというのに、黄色い生物は間を縮めてきた。その分、俺は距離を開ける。酷いと喚いているが知ったことじゃない。
こんなに広いのだから、近くまで来なくとも良いだろう。
それに、単に気持ちが悪い。
「……まあいいです。傷の具合はどうですか?」
ふざけているかと思ったら、いきなり真剣な表情へと切り替わるものだから調子が狂う。溜息を吐きながら、俺は額の傷に触れる。切れた場所は完全に瘡蓋になって、塞がれていた。
「問題ない。それより、視界の方が大問題だ」
「ああ、それならお気にならさず。普段、君が使っている眼鏡を買ってきました。着替えの上にあるので入浴後試してみてください」
そうか、とたった一言返し会話は途切れる。
本当に規格外だな。いつの間に買ってきたかも想像できない。
「――E組は楽しいですか?」
ぽたり、と髪を伝って落ちた雫が浴槽に波紋を作る。答えるのには時間はかからなかった。ソレを口にしようとしたその時、風呂場と脱衣所を繋ぐ扉が勢い良く開かれた。
目を細めて扉の方を凝視する。岡島に潮田か。その隣の金髪は―――。
「中村か。どうした、女湯は隣だぞ」
「っ―――!!」
間違った場所に来たと理解したのか、中村と思わしき人物はその場を後にする。暗殺旅行に拉致事件。何ともまあ、濃い一日だった。
「答えは、はい、だ――先生」
「ヌルフフフ」