元生徒副会長は輪に加わる



「でもさぁ、京都に来た時ぐらい暗殺のこと忘れたかったよなー」


 修学旅行二日目。初日は移動に時間を費やした為、実質今日からが暗殺旅行。各自、計画した通りに目的地へ向かいながら、本来の本分である京都の観光をしている。

「良い景色じゃん。暗殺なんて縁の無い場所でさぁ」

 杉野の言い分も分からなくはない。
 俺達は、つい最近までただの一般人で暗殺とは無縁の人間だった。学生の殆どが楽しみである行事の趣向が変われば、不満も抱くだろう。


「そうでもないよ杉野。ちょっと寄りたいコースあったんだ」




 寄りたいコースがある、という潮田の案内を受けながら辿り着いた場所は、坂本龍馬が暗殺された場所と言われている近江おうみ屋の跡地だった。
 さらに、この周辺には織田信長が最期を迎えた本能寺もある。

「ずっと日本の中心だったこの街は、暗殺の聖地でもあるんだ」
「なるほどな~。言われてみれば、こりゃ立派な暗殺旅行だ」

 その理論から行けば、暗殺の対象ターゲットになってきたのは、その世界に重大な影響を与える人物ばかり。
 地球を壊す黄色い生物は、まさに典型的な暗殺対象というわけだ。


「へー、祇園って奥に入るとこんなに人気無いんだ」


 一通りの場所を回り終えると、神崎の希望コースである祇園の奥地へ着いた。


「うん。一見さんお断りの店ばかりだから、目的もなくフラッと来る人もいないし見通しが良い必要もない。だから私の希望コースにしてみたの。暗殺にピッタリなんじゃないかって」

 成る程。周囲を見渡す限り、確かにここは暗殺向きだ。人気も無いのに加え、見通しが悪い御蔭で隠伏しやすい。異論もない。他の班員も賛成らしく、意気込んでいたその時―――。


「ホントうってつけだ。なーんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」


 不穏な言葉に振り返る。そこには、風貌の悪い男達が立ち塞がっていた。口元には軽薄な笑みが浮かべられていて、非常に不愉快だ。


「何お兄さん等?観光が目的っぽくないんだけど」
「男に用はねー、女置いてお家帰んな」


 ――極めて論外。女性を軽んじる、知性の低い色欲に目が眩む猿が。行動に出ようと腕を動かしたが、カルマの方が早かった。掌底で男の顎を一撃。舌を噛んだ男の顔面を掴んで、背後の電柱に叩きつける。
 実に、流れるような見事な動きだ。

「この餓鬼ッ……!」

 男の仲間の一人が、カルマの肩に触れようとする。ほう、いいだろう。正面に回り込むと、俺は男の腹部に正拳を放つ。掌底より威力の強い打撃に、男は腹を抱えながら蹲った。

「やるじゃん」
「お前もな」

 口笛を吹いて俺を見るカルマ。悠々とした態度に、物怖じしない行動力。停学の理由で喧嘩慣れしているということは把握していたが、群を抜いている。

 ああ、今さらだがこれは正当防衛だ。
 俺達には非は無い。

「カルマ」
「分かってる」

 残党も難無く俺とカルマで潰す。計画の邪魔をし、クラスメイトに手を出そうとした下衆に加減はしない。こいつらは地面に這いつくばるのがお似合いだ。
 最後の一人を完膚なきまで叩きのめすと、カルマが潮田に笑い掛ける。

「ホラね渚君。目撃者いないとこならケンカしても―――」
「――退けッ」

 完全に気を抜いているカルマの襟首を引っ張り、入れ替わるように前に出る。


「そーだねぇ」
「おい、司――!」


 鈍器で後頭部を殴られた衝撃で、前のめりに倒れる。視界が霞み始めただけではなく、判断能力も鈍ってきた。

 この場合、最適解は―――。
 ……ああ、駄目だ。少し寝る。



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