元生徒副会長は輪に加わる
「分かってたけどなぁ」
「ボロいな」
E組が泊まる宿泊地『さびれや旅館』。一斉に見上げ、口に出た言葉はボロい。宿の名は外観を現すように、劣化しさびれていた。俺としては、中々に良い雰囲気を持つ旅館だとは思う。伝統を感じる古風な造りに心が落ち着くし、客足も悪くはなさそうだ。
「一日目で既に瀕死なんだけど」
「新幹線とバスで酔ってグロッキーとは……」
旅館内に入った瞬間、黄色い生物は力無くソファに凭れ掛かった。見るからに顔が変色しているなとは思っていたが、まさか酔っていたとは想像もしなかった。
「大丈夫?寝室で休んだら?」
「いえ、ご心配なく」
心配する言葉を投げ掛け、気遣いを見せる岡野。その手にはナイフが握られていて、振り下ろされる度に黄色い生物は避ける。
「先生これから一度、東京に戻りますし。枕を忘れてしまいまして」
先程から気になっていた、山積みの荷物に目を向ける。
あれだけ荷物があるというのに、忘れ物をしたのか。凡そ、余計なものを持ってきすぎたせいで、本当に必要なものを置いてきてしまったのだろうな。
「どう、神崎さん。日程表見つかった?」
「……ううん」
どうやら、俺の班に何かを忘れた人物がいたようだ。意外にも、事前の確認はしっかりとやりそうな神崎だったので首を傾げた。黄色い馬鹿があのしおりを持ち歩けば安心だと言うが、はっきり言って論外。
アレが重たいから神崎は日程を纏めていたと言うのに。
「確かにバッグに入れてたのに……」
有り得るのは、本当に忘れたか。
あるいは、何処かで落としてしまったのか。
「神崎、俺ので悪いが持っていろ」
「え?それだと天霧君に悪いよ」
申し訳なさそうな顔で俺と、俺の手の中にある日程表に視線が行き来する神崎。
隣にいる杉野から嫉妬が混じった、刺すような強い視線を感じるので、補填しておこう。
「俺は潮田のを見せてもらうから気にしないでくれ」
「うん。だから神崎さん、大丈夫だよ」
俺から指名された潮田は、最初は戸惑っていたが直ぐに合わせてくれた。御蔭で、少し悩みはしていた神崎だが日程表を受け取ってくれた。
何より、俺に最初から日程表など必要ない。
全ての内容が頭に入っているのだから。