元生徒副会長は輪に加わる
俺には唯一、苦手な行事がある。
教育や学校行事の一環として、教職員の引率により児童・生徒が団体行動で宿泊を伴う見学・研修のための旅行。即ち、修学旅行。
今でも蝉の鳴き声が耳の奥底にこびり付いて離れない。
「皆、班が決まったら私か磯貝君に伝えてね」
テストが終わると、来週から京都へ二泊三日の修学旅行が始まる。だが、ただの修学旅行ではない。班ごとに分かれて回るコースを決め、黄色い生物がそれを引率するというのは普通の修学旅行と同じ。
ここからが普通ではない。
京都の街は、校舎内と比べて遥かに広く複雑に入り組んでいる。 狙撃手スナイパーを配置するには絶好の環境な為、国は狙撃のプロ達を手配したらしい。
まあ、要はアレだ。俺達には暗殺向けのコース選びをしろとのことだ。
「天霧君!良かったら同じ班にならない?」
「俺でよければ」
驚いたことに、真っ先に俺を誘って来たのは潮田だった。こういう状況になると、普段から仲の良い友人同士で組むだろうに。
「お、天霧がいるならカルマのことは安心だな」
「ソレ、どういう意味~?」
断る理由も無い。その輪に加われば、他の班員も集って来た。メンバーは杉野に潮田。カルマと茅野、奥田に神崎。バランスが取れた丁度いい班だ。
「一人一冊です」
「……重っ」
「何これ、殺せんせー?」
コース決めに熱中している班員の姿を背後から眺めていると、黄色い生物から分厚い本が配布された。
「修学旅行のしおりです」
「「辞書だろコレ!?」」
確かに重い上に、しおりの範囲を超越している。この分厚さは辞書と言っても過言ではない。最初に目についたのが『旅の護身術入門から応用まで』。
実用性があるとは言えないが、いずれ役には立つだろう。
「大体さぁ、殺せんせーなら京都まで一分で行けるっしょ」
「移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。先生はね、君達と一緒に旅できるのが嬉しいのです」
目を細めて語るその姿が、ただ眩しい。