元生徒副会長は困惑する
「――で、こうなったワケか」
「…面目ない」
俺の前には、土下座をする大河の姿があった。
あの後すぐ、俺達は総合病院に呼び出され、心臓が止まりそうな思いをしながら走り出した。カウンターの近くで俯いている渚に事情を聞くと、たまたま飛び降りた通路に、御爺さんが自転車を漕いでいたそうだ。
「…いいところに来た」
御爺さんが運ばれた病室から、静かに烏間先生が出て来る。遅れて到着した俺達を一見した後、烏間先生は腕を組んで壁に凭れ掛かった。
「烏間先生、容態は?」
「右大腿骨の亀裂骨折だそうだ。君らに驚きバランスを崩して転んだ拍子にヒビが入った。程度は軽いので二週間ほどで歩けるそうだが、何せ君らのことは、」
――一般人に知られては不味い、国家機密。嫌なことになった。一般人の御老人に怪我をさせた挙句、俺達の存在がばれてしまった。
これには、強く止めなかった俺にも否がある。
「口止めと示談の交渉をしている。頑固そうな老人だったが部下が必死に説得中だ」
「っ……!!」
次の瞬間、背中にゾクッと寒気が走る。全員で振り返ると、顔を真っ黒に変色させたアイツが立っていた。黒は即ち――怒りを現している。俺達は、再びアイツを怒らせてしまった。
そんな表情を見て、大河と矢田、竜馬が順に言い訳を口にする。
「だ、だってまさか、あんな小道に荷物一杯のチャリに乗った爺さんいるとは思わねーだろ!!」
「…地球を救う重圧と焦りが、テメェにはわかんのかよ」
パシ、と乾いた音が廊下に響く。
一瞬にして熱を持った頬を、片手で抑える。俺達は全員、アイツに頬を殴られた。
「……生徒への危害と報告しますか、烏間先生?」
「…今回だけは見なかったことにする」
眉間に皺を寄せた烏間先生が、俺達に背を向け、続けて言う。
「暗殺期限まで時間がない。危険を承知で高度な訓練を取り入れたが、やはり君達には早すぎたのかもしれん。俺の責任だ」
「……ぁ、」
それは違う。烏間先生の責任ではない。烏間先生の言いつけを破ってまで、自分達の力を驕り、無責任に行使した俺達の責任だ。
「…ごめんなさい」
「君達は、強くなりすぎたのかもしれない。身につけた力に酔い、弱い者の立場に立って考えることを忘れてしまった。それでは、本校舎の生徒と変わりません」
誰も、返す言葉は無い。
自然に口から紡がれた謝罪が、虚しく廊下に響いた。