元生徒副会長は困惑する
「さあ、さあ!皆さん、二週間後は二学期の中間ですよ!!」
体育大会が終わってすぐ、二学期の中間テストが迫っていた。
いよいよA組を超える時が来た、と意気込んでいるアイツとは違い、教室の空気はどこか浮ついていた。
「あーー、くそ疲れた!!よくあんだけ教え方を思いつくよな、殺せんせーは。今日なんか、分身を使って立体視まで活用してきた」
「何でもアリだな」
「…でもさ、勉強に集中してる場合かな私達。あと5ヶ月だよ。暗殺のスキル高める方が優先じゃないの?」
裏山を降りる途中、矢田が口にした言葉に皆が足を止める。そうか、どうりで最近落ち着きがないと思っていた。その理由は、全てアイツにある。
地球の運命が決まる期限は、残り5ヶ月。
焦るのも、無理はないか。
「…仕方ねーだろ。勉強もやっとかねーとあのタコ来なくなんだからよ」
「……そうだけど」
「クックック、難しく悩むなよお前ら」
重い空気が漂う中、それを打ち消すように大河が笑った。
「俺に任せろ。スッキリできるグッドアイディア見つけたからよ」
――
「…ここは?」
大河に案内され、俺達は裏山から住宅街を眺められる場所に辿り着いた。こんな場所があったことに驚いていると、大河は裏山から一番近い建物の上に飛び乗った。
「すげー通学路を開拓したんだ。ここからフリーランニングで建物の屋根を伝ってくとな、ほとんど地面に降りずに隣駅の前まで到達できる」
「えぇ~……危なくない? もし落ちたら……」
大河の考えは良いものだったが、俺は倉橋の意見に賛同する。普段、訓練で俺達が怪我をしないのは、アイツと烏間先生の監修の元だからであって、知らない場所で何かあってからでは遅いのだ。
そもそも、俺達は烏間先生に裏山以外でフリーランニングをやるなと言われている筈だが。
「へーきだって! 行ってみたけど、難しい場所はひとつも無かった。鍛えてきた俺らなら楽勝だって!」
「……うーん」
「いーじゃねーか磯貝! 勉強を邪魔せず暗殺力も向上できる! 二本の刃を同時に磨く。殺せんせーの理想とするところだろ!」
俺は、先生との約束を破ってまでやろうとは思わない。軽々と住宅街を飛び越えるメンバーを目で追った後、残ったメンバーを見る。
…これだけか。随分と少ないな。
「…帰るか」
「そうだね」
何も起こらない事を祈りながら、俺達は裏山の急斜面を降りた。