元生徒副会長は輪に加わる



 時は過ぎ、中間テストの日がやって来た。
 テストは全生徒が本校舎で受けることが義務付けられている為、E組だけが敵地で戦うことを強いられる。現に今も、教師が必要以上の咳払いをしたりと妨害行為を行っている。

 だが、その程度のことなどどうでもいいのだ。


『問11―――』

 テスト終盤に姿を現した、巨大な問題かべ。理事長の思案を顕現するかのような深い闇に、周囲の生徒の手が完全に止まった。

 残念だ、理事長せんせい――俺の中の貴方は死んだ。





「…先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていたようです」


 テストを終え、旧校舎に帰って来たE組の教室内は重い空気に包まれていた。原因は、中間テストにある。

「君達に顔向けできません」

 普通では有り得ない。テスト二日前・・・に、全教科の出題範囲が大幅に変えられただなんて。今回ばかりは、黄色い生物に非はないだろう。
 行き過ぎた合理主義の為に、手を加えた理事長が一枚上手だった。

「ちょっと借りるよ」

 耳元で囁かれたと思えば、机の上に置いてあった俺の解答用紙はカルマの手元に収まっていた。何をするのか、と視線を投げ掛けるとカルマは口元に笑みを浮かべて笑う。

「いいの~?顔向けできなかったら、俺が殺しに来んのも見えないよ」
「にゅやッ!?」

 次の瞬間、一本のナイフが投げられる。背後から飛んで来たソレを、黄色い生物は容易く避けてカルマに抗議した。


「カルマ君!!今、先生は落ち込んで―――」


 だが、それは直ぐに終わった。不敵な笑みを浮かべながら、教卓に辿り着いたカルマが見せた解答用紙。その用紙を見て、黄色い生物の顔色が一変する。

「俺達、問題変わっても関係ないし。ね?司」
「……俺に振るな」

 カルマの一言で、勢い良く椅子から立ち上がる音と共に教卓の周りを囲うように円ができる。
 赤羽カルマ。合計点数494点、186人中5位。

「ッは、すげ」

 E組中の視線が俺に集まる。こんなもの、見ていて楽しい物ではないだろうに。
 あ。合計点数498点、186人中――1位。


「俺はE組から出る気ないよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし。それに、おもろしろいヤツもやっと来てくれたし」
「…どうして俺を見る」
「で、どーすんのそっちは?全員50位以に入らなかったって言い訳つけて、ここからシッポ巻いて逃げちゃうの?それって結局さぁ――」


 殺されんのが怖いだけなんじゃないの?

 小馬鹿にしたカルマの挑発に、黄色い生物の額には青筋が浮かぶ。だが、この御蔭で教室の空気が変わったのも確かだ。


「なーんだ、殺せんせー怖かったのかぁ。それなら正直に言えば良かったのに」
「ねーー!怖いから逃げたいって」

 カルマに続くよう、皆好き勝手に煽り始める。
 最早、先程までの重い空気など何処にもない。


「にゅやーーーッ!!逃げるわけありません!!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」


 教室中に広がる笑い声だけが、木霊していた。
 曰く、人間は、苦しめられ打ち負かされる時、何かを学ぶチャンスを得る。才覚を発揮すること。勇気を持つこと。事実を掴むこと。

 ――確かに、そうかも知れない。



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