元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ
「…あ、あの、副会長」
体育大会の後片付けをしていると、後ろから一年生に声を掛けられた。倒れたパイプ椅子を片手に振り返ると、緊張した面持ちで一年生は口を開く。
「かっこよかったです!」
「…そうか、ありがとう」
礼を告げると目の前の一年は勢い良く頭を下げ、走り去っていく。体育大会を終えてから、何故か声を掛けられることが何度もあった。
…俺はもう、副会長ではないのだがな。
その光景を見ていたカルマがニヤニヤ笑いながら俺の元に近づいて来る。
「人気だねぇ、副かいちょー」
「揶揄うのはよせ」
癇に障る表情を浮かべるカルマの後頭部を軽く叩く。冗談だって、と悪びれもなく少し俺から距離を置いたカルマは、でもさぁ、と走り去る一年生の背中を眺める。
「俺達を見る目、変わったよね」
「…そうだな。お前達が頑張ったお蔭だろう」
「はぁ?何、馬鹿なこと言ってんの」
おーい、皆、とカルマがE組に召集を掛けた。何事かと集まった皆は、俺とカルマを囲んで頭に疑問符浮かべる。
「コイツ、また自分を蔑ろにした」
「待て、カル――」
「…何?今度こそ、はっきりと分からせてやる。皆、司を囲め!!」
手に持っていたパイプ椅子を取られ、もみくちゃにされる。そもそも、自分自身を褒めるなど、ナルシストのそれでしかないだろ。カルマめ、いつか仕返しをしてやる。
何とか、輪から逃れようとしていた時だった。
「…――あ、浅野君だ」
原が口にした名前に、E組全員の動きが止まる。すかさず陽斗が学秀の前に進み出て詰め寄った。
「おい、浅野。二言は無いだろうな?磯貝のバイトのことは黙ってるって」
「…僕は嘘を吐かない」
陽斗の言葉に、学秀はうんざりした顔で深く溜息を吐いた。そのまま小言を二、三個つらつらと言われた陽斗が慰めてくれ、と飛び付いて来るのを引き剥がす。
「やめろ、陽斗。鬱陶しい」
「……待て、今何と?」
この場を去ろうとした学秀が足を止め、距離を縮めてくる。
「鬱陶しいと」
「違う。その前だ」
「……やめろ、"陽斗"」
詰め寄って来たと思えば、学秀は無言になる。一体何だ。すると、小さく僕だけじゃなかったのかと学秀は少し顔を上げて目を細めた。
「はっ、残念だったな浅野クン?俺達全員、名前で呼び合ってっから」
「…僕の方が先だ」
下らないことで争い始めた二人に、頭を抱える。その言い争いは、五英傑が学秀を迎えに来るまで続いた。