元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ
たった一つの棒の上で行われる戦いに、観戦していた生徒は固唾を呑む。
片方が攻撃に出れば、片方は躱す。どちらも引けを取らない、激しい攻防戦だった。凄まじいのはそれだけじゃない。浅野も、天霧も、両者共に笑っている。
この状況下で、それも戦いながら。
「ふっ、どうやら腕は鈍っていないようだな」
「そのまま言葉を返そう」
荘厳な雰囲気に息を呑んでいると、浅野の拳が天霧の手の平に収まる。 そのまま浅野は前のめりに倒れ込み、いつもの爽やかな微笑みを崩し、グッと天霧に顔を近付けて睨み付けた。
息が掛かりそうな距離に、天霧の睫毛がゆらりと揺れる。
「ちょうどいい、ずっと聞きたかったんだ。何故E組に行った?落とされるのではなく、わざわざ自ら」
「え、嘘ッ……副会長って」
浅野の口から告げられた真実に、客席にどよめきが起こる。E組には、成績の悪化した者や校則違反者が送られる。天霧も、何かをやらかして落ちたに違いない。
そう、思っていたのに。
なんでエンドのE組なんかに、あの天霧が。
「それだ」
「……何?」
「その"E組"に対する差別」
ゴンッ、と鈍い音が浅野と天霧の額から鳴る。天霧の口から出た返答に、浅野はただ首を傾げた。怠け蟻が地に落ちるのは道理。
だから何だ、と返した浅野の腹に、天霧の肘が叩き込まれた。
ぐぅ、と唸りながら眉を潜めて、浅野は天霧をじっと見つめ続ける。相変わらず、何かを見透かしたようなムカつく目だ。
「ならば、何故」
振りかぶった浅野の拳が、天霧の右頬に当たる。振り降ろした腕が掴まれ、抜け出そうにもぴくりとも動かない。よく見れば、浅野の腕は震えていた。
弾かれるように、天霧が浅野を見る。
「……僕を置いていった」
静寂したグラウンドに、浅野の呟いた声が静かに反響した。