元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ



「…今だ、来い――イトナ!!」


 最早、A組の棒が崩れるのは時間の問題だろう。悠馬の声に無言で頷き、イトナはその場で二、三度、軽くジャンプして――走る。
 身を屈め、前で手を組んだ悠馬のその手にイトナは足を掛け、力の限り腕を振り上げ、イトナを全力で空中に放り投げる。
 頭上から迫り来るイトナに、学秀の目が大きく見開かれた。

 瞬間、ジャンプしながら棒の先端に飛んで来たイトナの体重で負荷が掛かり、A組の棒がぐらり、と傾き始める。もう駄目だ、と下で支えていた、A組の生徒の身体が固まる。

 悠馬が声を上げ、E組全員で傾いた棒に向かう。
 誰もが、E組の勝利を確信していた。


「……だ」

 ポツリ、と学秀が何かを呟いた途端、学秀の足元に居た渚達が蹴り飛ばされる。鋭く細められた瞳が、飛んで来たイトナへと向けられ、学秀はイトナの胸倉を掴み上げた。


「――まだだ!!」

 イトナの抵抗は虚しく、地面に放り投げられてしまう。人の波に呑まれながらも、再び棒の先端に立ち上がった学秀の顔は諦めていなかった。ああ、そうだ。それでこそ、学秀だ。

 ゆっくりと歩き出すと、司と真っ直ぐな声が聞こえた。
 放り投げられたイトナが、俺の前に屈み背中を向けている。それだけで十分だ。


「…頼んだ、司!!」

 地面を蹴り上げ、駆ける。俺は、緊急時の保険だった。緊急時の出番何てこなければいいと、そう思っていた。なのに今は、気持ちが昂ぶって抑えられそうにない。

 勢いのままイトナの背を踏み飛び上がり、棒に群がる人間を踏み台に上へ駆け上がる。
 紫紺の瞳が、挑発するような目で俺を見ていた。


「中々動かないとは思っていた。まさか、ここで君が来るとは思わなかったよ」
「俺も予想外の出来事だ」

 俺達だけを包むように、風が吹いて、頬を撫でる。邪魔をする者はいない。鴉が一鳴きし、飛び去っていく。それを合図に、俺は頭上の男の服を掴んだ。


 学秀はチラ、とそれを見てから俺の手を振り払い、支えられた棒を両手で掴む。そのまま身体を宙で何回か振り回した後、強い衝撃が俺を襲った。

 ひりひり痛む腕を眺めていると、頭上から軽口が飛んでくる。


「降参するなら今のうちだ」
「笑わせるな」



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