元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ


烏間side


「じゃ、じゃあどうすれば?」
「支えるのに集中しろ。こいつらは僕ひとりで片付ける」

 頭に付けていたヘッドギアを外し、浅野君は己の左肩を掴む吉田君の腕を握る。痛みに声を上げる吉田君の腕をそのまま捻り上げ、空気投げのように身体を回転させて地面に落とし、勢いを利用した後ろ蹴りで岡島君を蹴り落とした。

 訓練を受けたうちの生徒を、こうもあっさりと倒すのか。


『な、なんと浅野君……、一瞬で二人落とした!!』
「君達ごときが僕と同じステージに立つ?…蹴り落とされる覚悟は出来ているんだろうね」

 軽々と棒の上に降り立ち、唖然と自身を見上げる生徒達を、浅野君は見下す。勉強だけではなく、武道の心得まであるのか。溢れ出る絶対的なオーラに、一瞬理事長の顔がチラつく。相手は浅野君、ただ一人。

 それだと言うのに、防御するのに手一杯だった。

 その間にも、客席に散っていた残りのA組の部隊も戻りつつある。このままでは、周囲を取り囲まれ戦況はどんどん不利になる一方だ。


「……こちらはどうする。彼等が負傷するのは防衛省としても避けたいぞ」
「ヌルフフ。大丈夫ですよ。浅野君は一人で戦況を決定づける強いリーダーですが、磯貝君は一人じゃない」

 棒に登る磯貝君が、浅野君に蹴り落とされる。すかさず磯貝君は受け身を取り、背を屈める。その後方から走る数人を見て俺は驚く。――いつの間に。E組の守備部隊である渚君達が、磯貝君の背中をジャンプ台にして浅野君に飛び掛かった。

 それなら、守備は――と目を遣ると、竹林君と寺坂君たった二人で支えていた。
 その真下には、変わらず攻撃部隊が倒れている。


「梃子の原理さ」

 竹林君の声色から、すぐに嘘だと理解した。恐らく、彼等があそこから抜け出すのは容易いだろう。ならば、何故動かないでいるか。

 竹林君が、上手く彼等を言い包めているのだろう。


「あ、慌てるな……!支えながら一人ずつ引きはがせ!!」
『A組も防御の体勢が整ってきた!!ここさえ耐えきれば、E組に打つ手はもう無いはず!!』

 身動きが取れない浅野君の代わりに、A組の生徒が叫ぶ。
 浅野君はE組の生徒達に顔や髪を掴まれ、振り払うのに精一杯で、指示を出す余裕が見受けられない。


「――っ浅野、指示を……!」


 あそこまで不利だった状況から、よくもここまで。

 教え子の成長ぶりに、笑みが浮かんだ。



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