元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ
『な、なんとE組!!客席まで逃げ始めた!!それを追うA組で会場は大パニック!!』
「何をしている、早く動きを止めないか!!」
棒を押さえる榊原が焦ったように叫ぶが、大勢で迫り来る部隊を、俺達七人は躱し続ける。普段から訓練をしている俺達に取って、避けるのは容易いことだった。
そんな中、俺は唖然としながらもグラウンドを見る生徒に視線を向ける。
「見ろ、悠馬」
「……あ、れは」
俺が向ける視線の先を、悠馬も見る。そこには、明らかに戸惑いだけではない、E組に何かを期待するかのような視線が無数にあった。E組がどんな手で勝つ気なのか、次は何をするのか、と興味を示している。
人間の脳は、常に新しい刺激を求めている。
不利な状況とはいえ、観客さえも引き込み始めた今、E組のペースになりつつあった。
「お前が造り出したんだ」
「…俺が、つくった?」
ああ、と頷き、飛び掛かって来る生徒を避ける。紛れもない、この戦況を作ったのは全て悠馬だ。悠馬の指示があったからこそ、ここまで来れた。
誇っていい。
これは、並大抵に出来ることじゃない。
「はは、そっか。俺が……」
「ねーー、お二人さん。話すのは良いけど、そろそろじゃね?」
「……だな」
カルマの言葉に、悠馬が外側の客席に視線を向けた。俺達は、棒倒し開始直後に既に・・布石を打っていた。何故、俺達が客席に逃げ込んだのか。
ここに、その理由がある。
『――なっ、ちょ、どこから沸いた!?いつの間にかA組の棒にE組二人が!!』
「……何!?」
序盤に客席へ吹き飛ばされた筈の、拓哉と大成がA組の棒に飛び付いていた。最初から、この二人は、A組全員の注意が逆サイドの乱闘に向いた時に動く別動隊だった。
悠馬が俺達を見て、目配せする。
「逃げるのは終わりだ!!全員"音速"!!」
「よっしゃア!!」
合図と共に追っ手を振り切り、客席にいた攻撃部隊六人がA組の棒に飛び掛かる。
「どーよ、浅野。どんだけ人数差あろーが、ここに登っちまえば関係ねー」
足元の棒にしがみ付く陽斗を見て、学秀の顔が歪む。その時、A組の棒がぐらり、と動く。下に視線を向けると、サンヒョクと呼ばれる男が、長い腕を利用して棒にしがみついている友人を掴んで振り落とそうとしていた。
「降りろチビ!!」
「――やめろ、サンヒョク!!」
慌てて学秀はそれを制止させる。学秀が止めなければ、今頃無理やり引っ張った反動で棒ごと倒れていた。