元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ



 両者が整列し、いよいよ棒倒しが開始されようとしていた。
 その前にアナウンスによって、ルール説明が放送される。ルールは至って簡単。相手側の支える棒を先に倒した方が勝ち。

 だが、ここだけでは終わらないのが本校舎によるE組への差別。

 A組には、チームの区別を付ける為と称して、ヘッドギアと長袖を着用するよう課せられた。ただでさえ、E組は人数で劣っている。さぞ観客は、この不利な状況に沸き立っているだろうな。


「お、おい…勝つ気あるのかE組。攻める奴が一人もいないぞ!!」
「……何?」

 A組から、小山の戸惑う声が聞こえる。そこから波紋が広がるように、ざわざわと、観客達がどよめく。少人数で少しでも勝ち筋が見えるならば、防御を捨てて攻めるしかない、とでも思ったか。

 学秀の指示で、体格が良い外国人を先頭に少人数でA組が迫って来る。


「くそが…」
「無抵抗でやられっかよ!!」

 切羽詰まった表情の拓哉と大成が、二人で迫る攻撃部隊に突撃する。悠馬の制止の声も虚しく、二人は外国人に客席まで吹き飛ばされてしまった。

 ゴクッ、と悠馬の息を呑む音が耳に届く。


「『亀みたいに守ってないで攻めたらどうだ。…フン、と言っても通じないか』」
「カルマ」

 攻撃部隊を引き連れた男が近くまで来て、馬鹿にしたように英語で俺達を見下す。伝わっていないとでも思っているのか、その目には軽蔑の色が浮かべられていた。しかし、相手が悪かったな。

 俺達のクラスには、煽りに関してはプロ並みの生徒が居る。


「『いーんだよ、これで。今の二人はE組の中でも最弱…って感じ。ごたくはいいから攻めてくればぁ?」』」
「……!『ほう、標準語を話せる奴もいるじゃないか』」

 どうやら御眼鏡にかなったらしい。カルマから帰ってきた流暢な言葉に、男は軽く目を見開いて笑った。そして、男は学秀の方へ振り返る。学秀の反応はいたってシンプル。

 親指を下に向け、攻撃開始の合図。


「『…では見せてもらおうか!!』」
「――今だ、みんな、"触手"!!」

 攻撃部隊が突撃して来たのと同時に、悠馬の指示で棒を防御していた生徒が飛び上がった。どういう意味だ、と男の困惑する声に口角が上がる。そのまま、体勢を崩した攻撃部隊の上に飛び降りた。

 これだけでは終わらない。

 自軍の棒を半分倒し、棒の重みを利用して攻撃部隊を封じ込めた。


『これはキツい!掟破りの自軍の棒倒しで五人一度に雁字搦め!!』
「へっ、棒を凶器に使うな、なんてルールは無いからよ」

 棒の下で足掻く攻撃部隊に止めを刺すように、竜馬がグッとより力を込めて棒を押さえつける。
 潰れた蛙のように瀬尾が助けを求めるが、流石に、上に敵だけでなく自軍までも乗られている状態では、男も身動きが取れないようだ。

 さあ、どう出る学秀。

 屍と化した生徒の上で手に顎を置き、学秀の動きを見る。学秀も戦況を考えているようで、中々動かない。


「…来たぞ、どーする磯貝!」

 視線を上げた学秀の指示で、A組の両翼に居た遊撃部隊が迫り来る。ただでさえ数少ないE組の生徒が、七人掛かりで防御に出払っている今、A組は絶好の攻め時だ。


「よし、出るぞ攻撃部隊!作戦は、"粘液"!」
『おおっとE組、ここで攻める!たった七人で中央突破だ!』

 暫く考えた後、悠馬も攻撃の指示を出した。両サイドから攻めるには、どうしても真ん中に隙が出来る。その隙を付いて突破しよう、と考えたのだろう。

 だが、その判断は些か甘かったな。
 今の俺達は言わば、敵陣に突っ込んだ無策な鼠だ。――と、普通ならそう思うだろう。


『これを見たA組、E組を追って防御に戻る!!』
「何ィ!?攻撃はフェイクかよ!!」

 前方には、俺達を待ち構える残りの部隊。その中心には、いかにも格闘家らしき男二人が並んでいる。後方には逃がすまいと後を追う遊撃部隊。

 これで、完璧な包囲網が出来たワケだ。


「……皆!!」

 窮地に追い詰められた。
 それでも、悠馬は先頭を走りながら笑っていた。

 悠馬の掛け声と共に、俺達は走る方向を変える。嘘だろ、と傍観していた観客は席を立ち上がる。E組の攻撃部隊七人が、客席に向かって走り始めたのだ。それを追って、A組の各部隊も勿論着いて来る。

 客席は荒れに荒れ、座れる場所は無い。


「何で全員こっち来んの!?」
「え、決まってんじゃん。場外なんてルールが無いからだよ。来なよ、この学校すべてが戦場だ」

 椅子の背凭れに足を掛け、留学生二人に向かってカルマが指で挑発する。A組の生徒を押し遣り、大股で二人はカルマの前まで進み出た。

 その額には、いくつもの青筋が浮かんでいた。


「…上等だ」



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