元生徒副会長は生徒会長との綻びを結ぶ



「体育祭の棒倒しィ?」
「そう。A組に勝ったら、目を瞑ってくれンだとよ」


 あれから数日が経ったある日、教室ではあることが騒ぎになっていた。申し訳なさそうに謝る悠馬に聞くと、校則違反であるバイトを、悠馬が行っている所を学秀達に目撃されたらしく、条件付きで勝負を持ち掛けられたと。

 校則を破ることは、勿論駄目なことだ。だが、悠馬にはやらなければならない理由がある。
 黙っていた悠馬にも否があるが、些か安直ではないのか。


「第一、A組男子は28人。E組男子は16人。とても公平な闘いには思えないけどね」
「ケッ、E組に赤っ恥かかせる魂胆が見え見えだぜ」

 そもそも、このクラスは成績の悪化した者や校則違反者が落とされる教室。E組が負ければ、重い罰則。悪くて退学処分か。
 どーすんだよ、と友人が頭を抱えていると、静かに悠馬が席を立つ。


「……いや、やる必要は無いよ」

 いつもの爽やかな表情が崩れ、目の前には眉を下げたバツが悪そうな顔がある。


「浅野のことだから何されるか分かったモンじゃないし、俺が播いた種だから責任は全て俺が持つ。退学上等!暗殺なんて校舎の外からでも狙えるしな」
「……磯貝」

 自分が播いた種は自分でケリを付ける、か。それはそれは、随分ご立派なことだ。実に責任感があり、美徳だと称賛されるべき行動に値する。だが、今その行動はこのE組において全くの不要だ。

 俺が溜息を吐くのと、ブーイングが巻き起こったのはほぼ同時だった。


「難しく考えんなよ磯貝。A組のがり勉共に棒倒しで勝ちゃ良いんだろ?楽勝じゃんか!!」
「…前原」

 呆然とする悠馬の机の上に、対先生ナイフを陽斗が突き立てる。


「そりゃそーだ。むしろバイトが奴等にバレてラッキーだったね」
「日頃の恨み、まとめて返すチャンスじゃねーか」

 一人、また一人と突き立てられたナイフを握っていく。A組を見返そうとしているのは勿論だが、これだけ人が集まるのは悠馬の普段の行いだろう。人の上に立つには、まず何かを指導する能力がいる。

 だが、それだけなら誰でもできる。
 それで頂点に立ったというのなら、孤高の王――暴君と変わらない。


「悠馬」

 大事なのは、どの人物も均等な立場で接して、均等な目で見ることだ。悠馬の人格は正にそれに当てはまる。だからこそ周りから慕われて、自然に人が集まって来る。


「やるぞ」
「――ああ!」



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